狂乱の一夜が明け、佐伯が出勤して行って暫く。
二人がそれぞれ壁際に拘束された部屋は沈黙が支配していた。


御堂は本多から身体を隠すように無理に身体を捻って横を向き、全てを拒絶するようにジッと蹲ったまま動かない。
本多が眠っている間に気がついて、その体勢をとったのだろう。
顔もまた腕の影に隠すようにしていて、表情すら分からない。

だが、御堂の考えていることは手に取るように分かった。

「御堂さん」
静かに名を呼ぶと、痛々しいほど大きく身体が揺れた。
それでも顔を上げない御堂は本多と話すことを拒んでいて、しかし本多は話しかけるのをやめなかった。


「俺、後悔してません。御堂さんの問題に首突っ込んだことも、御堂さんに惹かれたことも、ここにこうしている理由、全部。」


御堂は顔を上げはしなかったし体勢も崩さなかったが、頭上で括られた手にグと力が入ったのが見て取れた。
腕の陰で、御堂は強く唇を噛む。
本多の言ったそれこそが、御堂を苛んでいるものだったから。


二人の関係が動き出したあの夜・・・自分を介抱してくれた本多に礼をとレストランへ誘ったあの夜。

もしもあの時、もっと強く本多を拒んでいたら

傷のことを問い詰められた路上で、何もかもぶちまける事なく過ごせていたら


ホテルに泊まらなかったら、彼の想いを突っぱねていたら・・・抱いてくれなどといわなかったら―――


苦く重い悔恨が御堂を離さない。
それが本多の一言で晴れる筈も無く、逆に、そうもあっさりと「後悔していない」と明言する彼に苛立ちさえした。
「何故言い切れる・・・私に関わったせいで君は、何の関係も無かったのにこうして監禁されて・・・
いずれは社会的な地位も失う、肉体的には何をされるか分からない・・・そんな状況に置かれてるんだぞ・・・。」
暗く力の無い声で言う御堂に、本多は困ったような顔で笑った。

「だって俺、御堂さんのこと愛してますから。」

「・・・・ッ」
あまりに明朗で真っ直ぐな、飾ることの無いその言葉に、御堂が鋭く息を呑む。
「御堂さんが苦しんでるのに何も知らずに安穏と生きるくらいなら、俺はこうして縛られていたほうがいい。
 何も出来ないなら、苦しいときに一緒にいるだけでもしたい。あんた一人を苦しませることなんて、できねぇよ。」
「ほん、だ・・・」
思わず、御堂は顔を上げて本多を見つめた。
丸く見開かれたその瞳に、彼は柔らかく笑い返す。
「あ、やっとこっち見てくれたな、御堂さん。」

その言葉と笑顔に、御堂の瞳から意図せず涙が零れ落ちた。

「お、おい泣くなって御堂っ」


些か場違いに慌てる本多が涙の幕で滲む。



ああ、自分はこんなにも



「君がっ、好きだ・・・ッ、本多・・・!」

切なげに涙を流しながら、それでも愛しさに満たされた瞳で見つめられ、本多は少し苦しげに微笑んだ。

彼がこうして自分を想ってくれることにこれ以上無い嬉しさを感じつつ、その彼を佐伯から守れない自分がもどかしい。
いや、身体は守ることが出来ないが、彼には御堂の心を守ることが出来る。


「俺も御堂さんが好きだ。・・・何があっても、俺は貴方を愛し続ける。」


「本多・・・ッ」



一心に自分を見つめる御堂の身体を抱きしめられないことが、何よりも辛かった。
だが、二人の心はその距離を隔てて尚強く結ばれていた。








「くそ・・・っ、離せ!!」
帰宅し、二人の様子が己の望んだものではないことを知った佐伯は、怒りを滲ませながらも諭すように話しかける本多の口をボールギャグで塞ぎ、苛立ちに任せて御堂を床へとうつ伏せに押し付けた。
「無駄ですよ、御堂さん。俺から逃げられるんですか?本多をそこに残して。」
それでも暴れる御堂に佐伯が意地悪く囁く。
「あいつの首輪の鎖は外せませんよ。俺が望まない限りね。」
本多の首輪を床と繋ぐ鎖を固定した人物を思い浮かべて佐伯はほくそ笑む。
彼の手にかかったのだ。
人間の手では外れまい。
「・・・外道が・・・・・!」
御堂は低く鋭く罵った。
本多がここに繋ぎとめられている限り、佐伯の言うとおり、御堂に逃げるという選択は出来ない。
「・・・・」
つまり自分がいなければ、御堂は逃げられるのだと、目の前で揉み合う二人を本多は苦しげに見つめた。
これから始まる恥辱の時間に耐えられるように、御堂は一度、しっかりと本多の瞳を見てから目を瞑った。
本多に見せ付けようと、晒した菊座を佐伯がネットリと舐める。
本多は嫌悪に眉を顰めたが、なおも挑むように佐伯の瞳から視線を離さない。
「ぅ、く・・・ッ」
やがてピチャピチャと音を立て始めた後孔が緩んで生暖かい舌を迎え入れ始め、噛み締めた歯の隙間から殺しきれない声が漏れる。
それでも佐伯は御堂のそこを舐めながら本多を挑発するように見、本多もまた佐伯を見据えるのをやめなかった。
「ふ・・・、ぅっ・・あっ」
舌が中に入り込み、更に指もそこを掻き回し始める。
びくびくと身体が震えて感じ、快楽の熱が嫌だと叫ぶ心を無視して全身を侵食していく。

それでも昨日のような、身を内側から食い破らんばかりの心の痛みは感じなかった。


“何があっても、俺は貴方を愛し続ける。”

力強くも優しい声が御堂を守っているのだ。




蹂躙者に唯々諾々と従う身体は諦める。
だが、本多を想うこの気持ちだけは、絶対に諦めない。




「ちっ・・・」
御堂も本多も、己の望む程のダメージを受けていないことを感じとった佐伯が忌々しげに舌打ちした。
己の思惑とは反対に強さを増した二人の絆。

ならば。


(穢してやろうじゃないか・・・お前たちの絆を、欲望で・・・)


「御堂、本多の方へ寄れ。」
その言葉に、きつく閉じられていた御堂の瞼が持ち上げられる。
何を言うのかと睨む瞳はすでに快楽に潤んでいて、佐伯はそれに満足しながら高慢に告げた。
「本多のを舐めさせてやるから寄れといってるんです、御堂さん。」
「っ・・・」
御堂の眼光が鋭くなる。
「誰が貴様の指示になど従うか・・・!」
そう言われるのは想定済みだ。
佐伯は笑い、御堂の耳元に低く囁いた。
「その強気、好きですよ…捻じ伏せ甲斐があって。」
御堂の心は、腹立たしい事に未だ佐伯の自由にはならない。
だが、彼の体は佐伯の与える快楽に従順だ。
毎日毎日男の味を叩き込まれ淫らに開花したその身体は決して逆らうことが出来ない。
佐伯はベッドに並べたおもちゃの中から一つ、白いプラスチック製の物を拾い上げる。
「これ、もう少し御堂さんが元気なときに使おうかと思ってたんですけど…聞き分けがないから仕方ないですね。」
顔を上げて視界にそれを認めた御堂は怪訝そうな顔をした。
奇妙な形に湾曲したその物体が何なのか分からなかったからだ。
「あれ、意外だなぁ。接待と称して俺を犯そうとしてた御堂部長ならご存知だと思ったんですが。」

佐伯の言葉に御堂が息を呑んで本多をみる。
本多も驚いた顔で御堂を見ていた。

佐伯が一人、ほくそ笑む。

「くくく、やっぱり本多に言っていなかったのか。まあ、言える筈がないよなぁ…最初に性的な関係を強要しようとしたのが自分だなんて言ったら、被害者面、出来なくなっちゃいますもんねぇ。」


矢のように降りかかる嘲笑と本多の驚愕の視線。
御堂は反論しかけて、その口を閉じた。



(それならそれで、いい…)



佐伯の言葉から本多が何を想像したのかは分からない。

実際よりも誇張された内容かもしれない。


それでも、本多がこの事実を知って己を軽蔑するなら、それでいい。
そうして彼が自分を嫌悪すれば佐伯は彼を解放するだろう。


本多に軽蔑されて、己の心は痛むかもしれない。



だが、それで彼が助かるのならば…。



そっと瞳を閉ざす御堂は天上の沙汰をまつ罪人のようにも見え、しかしその伏せられた長い睫毛に浮き上がる涙は、切ないほどに綺麗だった。
その顎を佐伯が掴んで引き上げる。
「な?そうだろう?本当のことを本多に教えてやれよ。あんたが先に言ったんだよな。」
勝ち誇る彼の声に、御堂の首がゆっくりと上下に動く。

本多が息を呑んだのが、音でわかった。


静かに、涙が一滴床に落ちる。





(終わった)







ありがとう、佐伯。
これで本多を解放してくれるだろう?








「御堂、さん」
唐突に、本多の声が聞こえた。
佐伯がボールギャグを外したのだろう。

御堂は静かに、待つ。
罵声でも嘲弄でも侮蔑でもいい、佐伯が本多を解放するに足る一言を、それに耐える準備をしながら、待つ。

「こっち見ろよ。」
言われて漸く、御堂は目を開けた。

ゆっくりと開いた視界の先で


「・・・!」


本多は笑っていた。

御堂が好きな、向日葵のような笑み。



『御堂さん、大丈夫。俺は信じてます。』



そんな声が聞こえた気がした。


「ほん、だ…」
震える御堂の声に本多は笑顔を絶やさない。



彼が何をしたのか本多は知らない。

それでも本多には分かっていた。


如何様にも取れる佐伯の発言を捨て置いて本多の想像に任せ、その結果本多が御堂を嫌えばいいと思っていることを。
御堂がそうして自分を守ろうとしている事を。


涙を零す御堂に、本多は困ったような色を笑顔へ混ぜた。



――そんなこと考えないでください。



声に出さず、御堂に語りかける。




――言ったじゃないですか、どんなことがあっても愛し続けるって。




御堂の瞳からまた、煌く雫が頬を伝い落ちた。
「クソ…ッ!」
佐伯が舌打ちをして本多の口にボールギャグを突っ込む。

何故、こいつらは俺の思い通りにならない…!

己の手の中で御堂が藻掻くのは快感だった。
だが、御堂が他人の手に縋って己から逃れようとするのは不快以外の何ものでもない。

苛立ちと殺意に任せて乱暴に御堂を組み伏せ、手にした器具を秘孔に押し込んだ。
「っ、んぐ!?」
本多へ意識をやっていた御堂は突然体内に滑り込んだ異物に息を詰める。
今まで咥えさせられたどれよりもスムーズに入ったそれはバイブレーターのような圧迫感もそう感じない。
戸惑う彼に佐伯が哂いを返した。
「あんたに思い知らせてやるよ。アンタは淫乱で男好きな肉欲の虜で、人を愛する資格なんかないただの性奴だってね。」
唇を歪ませる佐伯の青い瞳が狂気に彩られて御堂を捉えている。
理性を薄れさせた人間の纏う異常な気迫に晒され、御堂の背筋を怖気がゆっくりと這い降りていった。
「な、に…を…」
佐伯の手に先程の白い物体が無い。
あれはなんだったのか、不安げに瞳を揺らす御堂に佐伯が笑った。
「エネマグラですよ。あそこを刺激するようにできてるんです…御堂さんが大好きな、あそこをね。」
体内に埋め込まれた異物は特別な感覚を御堂に感じさせなかったが、佐伯の言葉に不安が募る。
しかし手の自由は利かず、なんとかそれを身体から排除しよう力を入れても身じろいでも、その物体は頑としてそこから動こうとしない。
佐伯を睨み上げれば悪魔のような笑みを返してくる。

いったい何を入れたのか。
いったい何をしようというのか。

御堂の不安が頂点に達しようとした時、器具が固定された先から体内にじわりと何か形容しがたい感覚が滲みだした。

「っ、ぅ…?」
内側から広がる何かに御堂が眉根を寄せる。
同時に埋められたものが押さえているのだろう辺りから熱が身体に染み出してくる。
佐伯が口端を引き上げた。
「始まりましたか?」
佐伯の意図していた何かが始まろうとしている。
御堂はその感覚から逃れようと無意識に身体へ力を入れた。
「ああ、そんなに力を入れると…」
佐伯の芝居がかった声が聞こえた瞬間だった。


「――――ッ!?」


脳がその衝撃に名を付けるよりも早く、身体がグンと仰け反った。
第一波の後、間を置かずに襲った第二波に、脳が追いつく。

快感、と認識したのだ。


同時に



「あっ、ああぁぁ…ッッ!!!!」



身体の奥から競り上がる、悲鳴のような嬌声が御堂の口から迸った。









「あ、あ、あ、ッ、ひぅッ」
フローリングの上で御堂は拷問のような快楽にのたうち回っていた。
尻にものを入れられてから一体どれ位経つのか、御堂に考える力は残っていない。
足先から脳天までを突き刺すような激烈な刺激は幾度となく彼を絶頂に引きずり上げ、しかし、射精を許さない。

体内を暴れ回る快感は御堂から理性を奪っていく。
紫苑の瞳は性の悦びに捕われて虚ろとなり、嬌声をあげ続ける唇からは唾液が滴り落ちる。

そして弱々しくなっていく喘ぎ声に反比例して、それを見ている本多の声が大きくなっていた。
「ん――!んぐっ、んんんっ!!!」
何を言おうとどう声を上げようと無様な、何の意味もなさない呻き声にしかならない。
喉は痛み、ボールギャグの隙間から唾液が飛び散っているのも解っていたが、それでも黙っていることなど出来なかった。
口が自由にきけたなら、本多は何を引き換えにしてでも佐伯に行為の中止を懇願したに違いない。
しかしそれも叶わず、御堂を助けようにも手も足も出せず、ただ、うなり声を挙げることしか出来ない。
佐伯は満足そうに笑い、汗に濡れた黒髪を掴んで御堂の顔を上げさせた。
「はっ、ぅ、ッ、ぁ…」
息も絶え絶えに、しかし貪欲に快楽を享受しながら喘ぐ様が佐伯を甚く満足させる。
悦楽に堕ち焦点を失った瞳を見つめ、触れそうなほどに唇を近づけ、佐伯は耳元で低くささやいた。
「気持ちよくて死にそうだろう?」
快感で淀む脳を直接震わせる低音に操られるかのごとく御堂の首が縦に振られる。
「どろどろに熱くなったそこを思い切り突き上げてイかせて欲しいだろう?」
絶え間なく嬌声を漏らしながら御堂はこくこくと頷く。
彼の理性も反抗心も、想像を絶する快楽の拷問に屈してしまっていた。
「だったら俺の言うことを聞け。」
己を保っていたならば決して頷かなかっただろうこの言葉にも、御堂はいとも簡単に頷く。
悔しそうに喚く本多を尻目に、佐伯は高笑いしたいのを押さえながら決定的な一言を御堂の耳へ吹き込んだ。
「あの男の性器をしゃぶれ。」
本多が息を飲んだ。

御堂が何の抵抗もなく佐伯の言葉に従ったからだ。

「んんぅ!!」
(御堂!!!)

未だ激烈な快感を与え続ける器具を体内に埋めたまま、虚ろな目で一心に本多の股間を見ながら御堂が這いよってくる。

「んんん!ん―――!」
(駄目だ!やめろッ、目を覚ましてくれ!!!御堂!!!!!)

本多は叫んだ。

声の限りに。


その何一つとして言葉になどならなかったが。


本多を嗤いながら佐伯が御堂の手枷を外す。
自由になった手は、ためらいもなく本多のスラックスの前立てにかかった。
「ん―――!!!!」
いっぱいまで身体を壁に張り付け、振り切れるほどに首を振る本多の悲痛な声も届かず、御堂の指が本多の性器を取り出す。
目の前で恋人が痛めつけられる苦痛に萎えたそれはすぐに生温かな口腔に包まれた。
「っ、う…」
否応なく走った快感に本多が眉根を寄せる。
性欲に理性を失った御堂の舌使いはいっさいの躊躇を見せず、本多の意思を無視してその欲望を育てていく。
いつしか本多も性器を屹立させ荒い息を吐き始めた。

「くくく…浅ましいなぁ。純愛を気取っていてその体たらくか?」

ベッドに腰掛けて足を組み、高みの見物をしていた佐伯が不快な笑い声を上げながら近寄ってくる。
本多は彼を睨む気力が残っていたが、御堂にはその声を言葉として理解出来るほど理性を残していない。
ただ、咥内にある愛しい本多のモノにむしゃぶりつくだけだ。
佐伯は悦楽に溺れる二人に満足すると、己の欲求を満たすために立ち上がった。
本多の股間に顔を埋めたまま無抵抗でいる御堂の腰を引き上げる。
「ふ、ああああぁッ!!」
そしてエネマグラを引き抜くといきり立った肉棒を、ぐずぐずに蕩けた御堂のナカへ突き入れた。
雄で突き刺される強烈な快感に御堂が口から本多のモノを吐き出して喘いだ。
「ひぁっ、あっ、あっ、は、ぅ…!」
本多の腰に縋り付き、佐伯に揺さぶられるまま喘ぐ。

藤色の瞳が本多を見上げ、彼は目を見張った。


淫楽に濡れた御堂の頬を幾筋も涙が伝っていくのだ。
理性を失ったかと思われた彼だが、本多は認識していた。


「っ、う、く…!」
自由にならない口から本多はうめき声を溢れさせた。


なぜこの人がここまでされなければならないのか。

彼が何をしたというんだ。


どうしてこの人ばかりこんな辛い目に遭わなければならない!?


この世に正義の剣など存在しないのだと、本多は奥歯を噛み締めた。


「御堂、身体を起こせ。」
佐伯の冷徹な声が響き、御堂は強引に半身を立たされる。
彼が本多に上半身を預けるような形をとらせ、手を前にまわす。
膝立ちの御堂を下から突き上げるように揺さぶりながら、本多と御堂のモノを一緒に握って扱き出した。
「っ、く、んぐっ!」
「ひあっ、アッ、はっ、ひぅん!」
体内から身体を貫く快感と性器から直接感じる快感とに耐えられず、御堂は咽び泣くように喘ぎながら本多の首筋に縋り付いた。

肩口に顔を埋め、目を閉じ、悲惨な現実を恋人の体温と匂いで閉め出す。

腰は揺らめき、佐伯が手を外しても御堂は一心に自身を本多のそれに擦り付ける。
それを下卑た言葉で揶揄されようと、もう構わなかった。


抱きつく御堂を抱き返す逞しい腕はない。

だが、それでもなお本多は体温とそして溢れるほどの愛情で御堂を抱きしめていた。

それが感じられるから、卑劣な行為によって作り出された状況であっても、御堂は幸せでさえあった。



もうこの先何度、こうして彼を抱きしめられるか解らない。

もしかしたらもう二度と、抱きしめ合うことは出来ないかもしれない。

そして自分はこの先、彼の目の前で醜態をさらすことだろう。

最後には佐伯に屈して、無様に跪くかもしれない。


それでも自分は心から本多を愛しているのだと、伝えておきたかった。



愛している。



本多、愛している。





愛している――!





ぎゅう、と御堂が力を込めて本多を抱きしめる。
口からは喘ぎ声しか漏れなかったが、御堂の心はまっすぐに本多へ届いた。


抱きしめ返すことが出来ない己をもどかしく思いながら本多は御堂の心の声をしっかりと受け止めて何度も頷く。



伝わった。



御堂はもう佐伯を恐れなどしなかった。

「っ、ふ…」
背後で息をのむ音を聞きながら、御堂は本多へ口づけた。



ありったけの愛を込めて甘く

抱きしめるように柔らかに

そして、炎のように情熱的に



「くそっ、離れろ…!」

本多に口づける御堂を見て激烈な不快感を感じた佐伯は彼を本多から引きはがそうとする。
だが、御堂は必死に本多の首筋にしがみつき、キスをしたまま離れようとしない。

「離れろ、御堂!!」


ありったけの力で御堂は本多に縋り付いた。

爪を立てられた本多の首筋が悲鳴を上げたが、御堂も本多もそんなものには構わなかった。



これが最後とばかり、二人は口づけを続けた。

涙を流しながら。



やがて、佐伯の力に負け、御堂の指が本多の首から滑るように離れる。


それでもなお御堂は本多のジャケットを掴んで数瞬耐えたが、ついに二人は引き離された。




御堂を床に叩き伏せた佐伯は肩で息をしながら己の支配下に捕われたはずの二人を呆然と見下ろすことしか出来なかった。








>>NEXT>>>>>

実に11月から7ヶ月ぶりの更新、第三話でした。
お待たせいたしました。
結構酷い回ですが、これでも酷さのピークではないと言う酷い小説ですw
おそらく次回かその次がピーク。まだもうすこしエロパートが続きます。ごめんね御堂さんwこんな状態でエネマなんて使ったら普通死んでるよねww
そして佐伯もごめんw主役なのに悪役扱いでw