殊更ゆっくりと、足音が近づいてくる。
恐怖心を煽るため、焦燥を煽るために態とやっているのだ。
朝とは打って変わって丁寧に寝室のドアを開け、蒼白な御堂をみて佐伯は愉快気に笑った。
「・・・佐伯、貴様・・・ッ」
不快な高笑いを遮るように御堂が怒鳴る。
「睨まずに喜んでくださいよ。大好きな本多をこうしてつれてきて差し上げたんですから。」
「下衆が・・・!!」

罵りながら、御堂は昨日の己の言動を悔いた。
鞭を振り上げながら本多との関係を下卑た言葉で問いただす佐伯に歯向かったことを。

本多を愛しているのも彼と抱き合ったのも事実で、彼との関係を貶す佐伯の言動も到底許せるものではなかった。


だが、本多の安全を考えれば御堂は事実を述べることも、佐伯に食いかかることもするべきではなかったのだ。


しかしもう遅い。




こうして本多を拘束した以上、目の前の男は何があっても彼を解放しないだろう・・・そう、自分が膝を折るまでは、決して。




「・・・彼に、何をするつもりだ・・・・・」
搾り出すように問うと、佐伯が笑みを深くした。
「何をしましょうか。」
クツクツと笑いながらビジネスバッグとジャケットをベッドに放る。
そしてややネクタイを緩めながら、バッグの中から見るのもおぞましい玩具を取り出し並べていく。
御堂は頬を引きつらせながらそれらを見た。
「これを本多に突っ込んでやってもいいし、俺が犯してもいい。いや、でもペットは一人で良いからな。
 貴方が俺に逆らう度にどこかを切っていくっていうのはどうですか?パーツを切り離してもいいし・・・二度と動かせないよう腱を切ってもいい。」
御堂の瞳が恐怖に震えた。

「ば、か・・な・・・そんなこと、出来るわけ・・・」
「そうですか?その割には御堂さん、声、震えてますよ?」

その通りだった。
道具を並べながら非道な台詞を吐く佐伯の目には明らかな殺気があり、
あまりに非現実的な内容なのにも関わらず佐伯が実際に手を下す光景がまざまざと想像できたのだ。

血の気を薄っすらと失っている御堂を佐伯が鋭い瞳で観察する。
それから口だけでフッと笑った。
「そんなに怖がらないで下さい。全てはアンタが俺のことしか考えられなくなってからだ。
 本多がそこで切り刻まれていても俺の身体にむしゃぶりついて離れない、俺のペットにしてやるよ。」
その言葉で御堂の頭にカッと血が上った。

「そんな日は永遠に来ない!!」

我を忘れて怒鳴り散らす声に佐伯の笑い声が被さる。
「必死だなぁ、御堂さん。まあいい、本多が目を覚ますまでもう少しあります。それまで遊びましょうか。」
どれにしようか、などと聞こえよがしに言い、卑猥な道具を物色する。
御堂に見せ付けるように一つ一つ手にとって選んでいた佐伯が最終的に取り上げたのは、悪趣味な色をした太いバイブだった。
電源を入れたそれを手に近寄ってくる。
「まずはこれで、アンタの尻の穴の本来の姿を目覚めたアイツに見せてあげましょうか。」
「・・・ッ」
空気中で震えながらウネウネと動くそれを見た御堂は反射的に後ずさった。
だがそうするまでもなく拘束された身体は壁に張り付いていたし、拘束具を嵌めて強制的に開かれた脚も全く閉じることが出来ない状態だった。
「や、め・・・」
いつ起きるとも知れない本多の前でなど考えたくもないが、それでも目の前の男に制止を乞う抵抗が強く、自然威勢が弱まる。
懇願ならば兎も角そんな拒絶で佐伯が止まるはずもない。
むしろ嬉々として、御堂の腰を掴んで引き、同時に膝を押して後孔を曝した。
一度電源の切られた玩具がそこにあてがわれる。

そこで確認するように佐伯が御堂の目を見た。
意味はわかっている。


懇願するなら止めてやる、そうでなければ突き入れる、という最後通牒だ。


「く・・・ッ」

常ならば即答する御堂の視線が佐伯の肩越しに、意識のない本多を見た。

そして御堂は常の通り、強く佐伯を睨み上げた。



本多の目の前でこの男に懇願することは、最悪の裏切り行為に思えた。



佐伯がクッと笑う。
身構えるのが早いか、慣らしもしないそこに太い異物がねじ込まれた。
「ぐ、あ、ッ、ッ、―――!!」
性器を模したそれの張り出した先端が無理矢理押し入ってくる激痛と圧迫感に漏れる悲鳴を必死で噛み殺す。

普段は痛みを散らすように張り上げる声を耐える理由は明らかに、反対側の壁に拘束された男だ。

佐伯は無意識に笑みを消して眉を顰めた。
より一層乱暴にバイブで内壁を割り開き押し込めると、御堂の唇に僅かな血が滲んだ。
「チッ・・・・・・」
よく分からない不快感に駆られるまま、無理矢理その唇に親指を捻じ込む。
「んーッ、く、ッ・・・!」
首を振って逃げようとする御堂を許さず歯列を割って押し込んだ。

声を出せ、そう念じた瞬間。


「いっ・・・!」


ガシ、と指に容赦なく歯が立てられた。
走った激痛で咄嗟に指を引き抜く。

反射的に御堂を見ると、肩で息をし、汗を浮かせながら御堂が憎悪を籠めて佐伯を睨み上げてきた。

「・・・・・・」


腹から猛烈な怒りが湧き起こる。


佐伯は立ち上がり、御堂の体内に半ばまで埋まった玩具を力いっぱい蹴りいれた。

「ぃあ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
蹴られた拍子にスイッチも入ったのか、まさに突き刺されたそれが震動と共に暴れだす。
「グ、ぅッ、あぐ・・ッ、ッ」
声を殺す余裕を根こそぎ奪われ、御堂は襲い来る激しい苦痛にガクガクと身体を震わせた。
頭上で手錠がけたたましい音を立てる。
衝撃と恐怖に歯の根が合わない。
御堂の顔は蒼白になり、白い肌には脂汗が滲み出た。
佐伯は暗く笑い再びしゃがむと、根元まで沈んだそれで体内を抉るように動かす。
「イッ、あっ・・く、やめ・ろ・・・ッ」
「やめてください、でしょう?それにアンタはそんな事ばっかり言って、いつも最後には善がり狂うだろ。」
御堂は奥歯をかみ締めて佐伯を睨んだ。
事実、今は内側から身体を引き千切られそうな暴力に苦痛を覚えていても、男の言うとおり徐々に快楽を見つけて熱を上げ始めるのだ。
悔しげな視線を受けて、佐伯は闇雲に抉るようだった動きを徐々に変え始める。
御堂よりもその身体を熟知している佐伯には、彼の快楽のスイッチを入れることなど造作もない。
出力を弱め、内壁のポイントの周囲をゆるゆると刺激していく。
「ッ、は・・・、ぅ、ッ、ふぅ・・・ッ」

嫌だ。

意志に逆らって身体の奥に生まれ始める火を感じ、心が呻く。
だが幾ら抗ったところで何の用もなさない事も思い知っている。

佐伯に拓かれ男の味を叩き込まれた淫らな身体は与えられる快楽にすぐさま平伏す。


それがどれほど御堂の意志に反していようとも。


「ふ、ぁ・・ッ、はっ、んぅ・・・!」
噛み殺しきれない息遣いに甘いものが混ざり始め、佐伯がニヤリと笑う。
「もう善くなってきたのか、淫乱」
カチ、と出力が上げられ、狙い済ましたように震動が前立腺を直撃した。
御堂の背がグンッと撓る。
同時に、甘い悲鳴が口を割って出た。
「ぃ、ああああああ・・・!!」
先端が前立腺からずれないよう固定し、最大震動で佐伯は御堂を攻め立て始める。
「ひあっ、アッ、や・・ッ、ぁああっ」
手錠の鎖が、無意識に上へ逃げようとする御堂の動きを笑うように音をたてる。
もがく脚も拘束具がバーで繋がれているが為に目的を果たせず、無闇に動けばその拍子にバイブの根元が床に当たって一層御堂を苛む。
佐伯の楽しそうな笑い声が更に御堂を追い詰めた。
「ねえ御堂さん、アンタのココ、もうビンビンですよ?」
目の前で屹立する御堂のモノをツ・・・と撫で上げれば、白い身体が面白いように跳ねる。
鈴口を強く擦って指を離せば、透明な液体がトロリと流れ出た。
「くっ、くっ・・・いやらしいなぁ。もうお漏らしですか?」
その言葉に御堂が懲りずに睨むも、快楽に染まった目元と潤んだ瞳では佐伯を煽るだけ。
抗う言葉すら嬌声に呑まれる状況で尚も逆らう御堂を見るのが快感であるのだから。


もっとその顔を見せろ・・・そう思ったとき、御堂がハッと息を呑んだ。
鋭いその音は今までのものと違う。


見上げると、快楽に浮かされた視線が驚愕と恐れを含んで佐伯を素通りしている。



御堂が見つけたのが何かを悟り、口角が自然に持ち上がった。



そして態と知らぬ振りで、前立腺を抉る。
「ひぅう!あっ、んあ、よせ・・・ッ、やめ・・・ッ―――!!」
どうしようもない快楽に悶える御堂の後ろでガシャンと音がした。
首輪から繋がった鎖が、繋がれた男を制御した音だろう。


「な・・、え・・・、みどう、さん?それに・・・か、つ・・や・・・?」


狼狽したその男の声が追って届く。

佐伯は大声で笑い出したいのを堪えながら後ろを振り向いた。
予想通り、大きな瞳を零しそうな程見開いた男が彼を凝視していた。

「漸くお目覚めか、本多」
二ヤッと笑ってやると、普段は本人の意志に素直な口が、声も出せずに意味もなく動く。
「や、も・・・ッ、みるな・・ッ見るな本多!!見ないでくれ・・・!!!」
後ろで御堂が啼き散らす。
止まらないバイブの振動に悶えながら必死で叫ぶ声に涙が滲んでいる。


愉快で、不快だ。


「見てやれよ本多、お前の大好きな御堂が他の男に突っ込まれたバイブで善がり狂ってるぞ。」

その言葉で、意識を取り戻した途端飛び込んできた光景に硬直していた本多の意識が一気に動いた。
御堂の部屋で、御堂を拘束して陵辱している己の親友。


つまり、これは。





「嘘、だろう・・・?お前だったのか?ずっと、御堂さんを苦しめてたのは、克哉・・・。」





信じ難い事実に呆然と呟く。

友情ゆえに現実を否定しようとする本多に、佐伯は残忍な笑みを見せた。
答えるまでもない、というように。


カッと火がついた。



「お前・・・!!!自分がやってること分かってんのか!?」



信じたくない、だが、ここまで決定的な状況を見せられて、いかな本多であっても友人を庇うことなど出来なかった。

何か理由があるのだと無意識に友人を庇おうとする心も存在はしたが、佐伯の行為の度が過ぎていることは歴然としている。



無残に疲弊した御堂を知っていれば尚更。



激しい胸の痛みを感じながら怒鳴るが、佐伯の笑みは変わらない。

「ああ、分かっているさ。御堂を強姦して玩具にしてる。御堂もこの通り、悦んでるな。」
「てめっ・・・いい加減にしろよ!!これを外せ!!!!御堂から離れろ!!!!」

怒りと、同じだけの哀しみが、本多の中で暴れまわる。
佐伯は笑いながら業とらしく顔を顰めた。
「うるさいな。」
そういって、おもむろにベッドに向かう。
まさか、と先程のやり取りを思い出して緊張する御堂の前で佐伯の手は卑猥な玩具の上を素通りし、昨日剥ぎ取って放り投げたままの御堂の服にかかった。
そしてある物を取り、本多に向き直った。

「ほら、これ、口に入れてろよ」
「むぐぅっ!?」

残忍な笑い声と共に本多の口に突っ込まれたのは・・・。
「嬉しいだろう?お前の大好きな御堂部長の下着だぞ。」
「んんぅ!」
目を剥いて吐き出そうとする本多の口を佐伯が押さえつける。
これ以上ないほど近づけられた親友の顔は、本多がいまだ嘗て見たことの無いほど、冷酷で残虐な表情をしていた。

「いいか、勝手に出したら、御堂にその仕置きをするからな。」

サッと、本多の視線が佐伯の背後に流される。

御堂は異物の震動が与える快楽に耐えながら本多を見ていた。


紫苑の瞳いっぱいに涙と、本多への謝罪を籠めて。


本多から攻撃的な力が抜けた。

「それでいい。大人しくおしゃぶりしてろ。」
くるりと踵を返す佐伯に、御堂が肩を揺らす。
本多の前でこれ以上何もされたくないが、この男がこれしきで満足する事は絶対にありえない。
何をする気かと表情を探る御堂の視線は一心に佐伯に注がれている。
佐伯はその恐怖心を煽るようにニヤリと笑って見せた。

「さあ、あんたの淫乱な本性を本多にみせてあげましょうか。」

壁に磔にされているような状況から更に身を引くような御堂の動きを嗤いながらゆっくりと近づき、出窓のポールに固定した手錠を一旦外す。
手錠を外されるとは思わなかった御堂が佐伯を振り返る訝しげな視線にやはり笑みを返し、その手首を御堂の背後でもう一度金属の和で繋いで見せた。
何をする気だ、と、声を出さずに睨みつけてくる御堂の視線が心地よい。
そしてその向こうから飛んでくる、殺意さえ孕みそうな、しかし憎悪や殺意だけ汲み取るには複雑な男の視線にこれ以上なく高揚する。
佐伯は御堂の背後に回りながら本多を見据えた。

(そうだ、そうやって見ていろ)


御堂は俺の玩具で、お前は取るに足らない脇役にすぎない

恋愛ごっこなど出来る身分ではないのだ


御堂を嬲るのは俺だ

御堂が恐れるのも俺だ


御堂は俺を恐れ、俺を憎悪し、俺に支配され、俺に膝を折り、求める。



ただ、俺だけを。



底光りする目で佐伯は本多を見据えつつ、御堂の上半身を床へ倒した。
「ッ、止めろ!!離せ!!」
肩を押し付けようとする佐伯に御堂が激しく抵抗する。
常より強いその抵抗を愉しみながら、両手の自由が効かない御堂を難なく押さえつけ、むき出しの腰をぐいと高く掲げさせた。
「・・・!」
本多が鋭く息を飲む音が聞こえた。
その音に反応して、御堂が身を捩りながら顔を横に背ける。
佐伯は高笑いを堪えながら御堂に埋め込んだ玩具を一息で引き抜く。
「ぃ、あああ・・・!!!」
衝撃に、御堂の背が大きく撓る。
休む間を与えず、天を仰ぐ肉棒を御堂の中に突き入れた。
「ひああああッッ」
自身の中を押し開いて突き刺さる性器に押し出されるように悲鳴が上がる。

どう聞いてもそれは甘く淫靡な色を含んでいて、御堂は死にたくなった。
本多が見ているというのに、身体は慣れた快楽に溺れようとする。

御堂は必死で己を制御しようとするが、佐伯がそれを許そう筈もない。
「ほぉら、ご開帳だ。」
「ぃ―――!!!」
何が起きたのか御堂には分からなかった。
全身を貫いた酷い快楽に視界が白く染まり、それが戻ったときには彼の身体は佐伯の膝の上に座った状態になっていて、
背後から延びた両手によって脚をこれ以上ないほど広く開かれていた。

「あ・・・あ・・」

本多の眼前に隠しようも無く曝された己の恥部。
開かれた白い脚の付け根は体液に濡れ、性器はきつく立ち上がり、後孔は赤黒い男の肉をずっぽりと咥え込んで卑猥に蠢く。
言葉もなく己を見つめる本多の視線。

余りに残酷な現実に、御堂は言葉も出せなかった。

「よく見えるだろう本多・・・コイツは男のモノを突っ込んでもらえるなら誰だっていいんだよ。こうやって・・・」
言いざま、鋭く御堂の奥を突き上げる。
「んあっ、あッ、ふぅ・・!」
同時に胸の飾りも指で捏ね回され、御堂は噛み殺し切れない嬌声を上げながら身を捩らせた。
「男に嬲られるのが最高に気持ち良いんだよな?御堂?」
快楽に震える御堂の首が弱弱しく振られる。
感じてしまうのを止められない以上、少しでも本多の視線を感じまいと目を閉じるのに、言葉もなく自分を見つめる彼の目を痛いほどに感じてしまう。


嫌だ、嫌だ、嫌だ



こんな、こんな―――!



きつく閉じられた御堂の瞳から涙が零れ落ちる。



「み、るなぁっ、みるな、ほんだ・・・!!」



悲痛な声を上げながら御堂は佐伯に揺さぶられ、身悶える。

見せ付けるように激しくなる陵辱。
だが本多は何も出来ない。

止めようにも声を出すために詰められた布を吐き出せば御堂が何をされるか分からず、自身に施された戒めのせいで手も足も出ない。



(くそっ、クソ・・・!!!)



御堂が目の前で犯されている。

守ると誓った相手が、すぐそこで苦しんでいるというのに何も出来ない。

それどころか、自分の存在が彼を苛んでさえいる。


その上、ずっと彼を嬲っていたのは、佐伯だった。


御堂を苦しめている男を、自分は親友だとさえ思っていた。

御堂を心から案じながら、彼を追い詰めている張本人と知らずに笑いあってさえいたのだ。



悪夢。





いや、夢であったならどれ程よかっただろうか。





「ひっ、あああっ、く、あっ、あっ・・・や、あぁぁっ」

奥の奥まで抉られて、御堂が喘ぐ。




明らかに快楽を感じているそれはしかし、本多には血を吐かんばかりの悲鳴に聞えた。













「んぅ・・・」

ぐちょりと音を立てながら佐伯が性器を引き抜くと、意識を失ってぐったりと伏せた御堂から微かに呻き声が漏れた。
佐伯に言葉で嬲られ、容赦なく蹂躙され、御堂は高い声を上げて何度目かの白濁を放って意識を手放したのだ。
二度体内に注がれた佐伯の精液が、肉棒を引き抜かれて小さく口を開けた孔から零れ落ちる。
精液を纏わりつかせながら紅く染まってひくひくと蠢くその様子は酷く卑猥だ。
佐伯は満足げにそれを見てから御堂をそのままに本多へと歩み寄った。

手錠と床から繋がる首輪で動きを封じられ口に布を詰められた本多の頬には幾筋もの涙の跡がある。
そして常は活き活きと明るい瞳は、深い悲しみと激しい憎悪を漲らせて佐伯を睨みあげていた。

佐伯の手がのび、口から御堂の下着が抜き去られる。

本多は自由になった声をしかし使うことはせず、燃え滾る瞳でじっと相手を見据え続けた。


親友だと思っていた、犯罪者を。


やがてその男がフッと笑って口を開いた。
「どうだった?御堂の痴態は?」
本多は答えない。
だが佐伯には気に止めるべきものでもなかった。
「俺を咥え込んでいやらしく腰を振ってエロい声で善がり狂って・・・」


「なあ、克哉」


下卑た笑みを浮かべながら続けようとする佐伯を、低い声が遮った。
ブラウンの瞳に、常のような明確な感情は無い。

本多自身整理の付けようもない複雑な想いが行き場もなく乱反射して、胸の中は混沌としている。


だがこれだけは聞きたいのだと、制御を超えて噴き上がりそうになるその混沌を本多は押さえ込んでいた。


「なんでその人を犯したんだ」
なぜこれだけは聞きたいと思ったのか。
本多にもはっきりしなかった。

大切な人が傷つけられたのには相当の理由があるべきだと思いたかったのか、
それとも、ずっと親友だと思ってきた男の凶行の理由に少しでも情状酌量の余地を見つけたかったのか。


彼が放り込まれた・・・いや、知らぬままに自ら身をおいた場所は、酷く残酷なところだったのだ。


しかし佐伯の答えは本多が無意識に抱えた想いの双方を無慈悲に踏み躙るものだった。




「面白そうだったからだ。」




佐伯は笑ってそう答えた。
「なっ・・・!」
息を飲む本多を彼は更に鼻で笑う。

「支配者面した男を組み敷いて突っ込んで喘がせて屈辱に塗れさせる。愉しいことこの上ないな。」

堰を切って、本多の混沌が噴出した。


「お前、それで許されると思ってんのか!?御堂は精も根もお前に踏みにじられてボロボロになってんだぞ!!
 御堂の人生をお前が滅茶苦茶にしてるんだ!!人の人生ぶっ潰しといて愉しいなんて笑ってんじゃねぇよ馬鹿野郎!!!
 お前はそんなヤツじゃねぇだろ!?どうしちまったんだよ一体!!!何やってやがんだよ克哉!!!!」


本多の首と床を繋ぐ鎖がけたたましい音を立てる。
その度首輪がその首を絞めているはずだが、本多にはそんな感覚などどうでもよかった。


溢れ出して来る、御堂への愛情と、佐伯への友情と、遣る瀬無さと、憤怒と、哀しみと自己嫌悪と・・・感情の渦が激昂となって爆発する。


一つ名をつけるのなら、悲鳴、だろうか。


だが、その叫びさえ佐伯は冷笑と揶揄でもって弾き返した。
「正義の味方か?だとしたら随分なヒーローだな・・・ヒロインが悪役に犯されてるのに何も出来ないどころか・・ここをこんなにして・・・」
言い様、佐伯は本多の中心を握りこんだ。
目の前で見せ付けられた御堂の痴態と激昂によって硬さを増したそれを。
「っ、く・・・」
細長い指がやわやわと、形を成し始めたそれを刺激する。

本多は激情で紅潮した顔を更に赤くさせたが、佐伯を睨む眼光は微塵も揺るがなかった。

射殺さんばかりの視線に至近距離で睨み据えられながら佐伯はニヤニヤと笑って彼を見返す。
「御堂の痴態はよかったか?クク・・・ッ、イイだろうなぁ、俺が仕込んでやった身体だ。お前、御堂を抱いたんだろ?何回ヤッた?一回じゃ足りなかっただろう?
 あの身体でお前もビンビンにおっ勃てて善がるに任せて突っ込んだんだお前が、その身体を作った俺を糾弾する資格なんてあるのか?」
可笑しくて溜まらないと佐伯は嘲笑する。

しかし本多は怯まなかった。


「一緒にすんな。俺は御堂の身体を抱いたんじゃねぇ。お前みたいに動物よろしく性欲を追ったわけでもない。
 俺は御堂を愛してる。御堂も俺を。・・・他人を踏みにじって悦んでるような変態にはわからねぇだろうけどな。」


「言うじゃないか」

佐伯の表情が本多を前にして初めて歪んだ。


本多の言葉の何が己の琴線に触れたのか。
佐伯の中に激烈な不快感が湧き上がる。



「いいだろう。お前の前で壊してやるよ、お前の大事な御堂の何もかもを。お前らの下らない感情を含めて、全部。指を咥えて見てろ。御堂が俺に堕ちるのを。」







佐伯は奥歯を噛み締めた。

不快感の根源にあるものに彼は尚気付かぬまま・・・目の前の絆に対する破壊欲求だけが際限なく膨れ上がりつつあった。




















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ごめんね御堂さん、ごめんね本多・・・二話で謝っちゃったらこの先どうしていいかわからなくなるけど(含み笑い)