「はぁ・・・」

本多の遣る瀬無い溜息が華やかなイルミネーションと弾む音楽に華やぐ雑踏へ消えた。


クリスマスイヴの夜。


擦れ違う人は皆それぞれに幸せそうな表情で傍らに居る大切な人と語らったり、愛しい人の待つ場所へと急いだり。
そんな雰囲気の中で自分だけ休日出勤の上家で待つ人もいないとなれば、わが身の不幸を呪いたくもなるものだ。
しかも出勤の原因が他人のミスなら責任転嫁もできるのに、紛れも無い自分のミスで。
殆ど人のいない会社で1人寂しくミスの処理をして、誰も居ない家に1人寂しく帰る身だ。

一応恋人は居る。

一応、とつけなければならないのが寂しい。
いや、告白もして、受け入れてもらって、それなりのことはしてるのだ。
本多が誘えば一緒に居てくれるし、本多の求めにも応じてくれる。

本多が誘えば。


問題はそこだ。


御堂と付き合い始めて三ヶ月余り。

一度も向こうから誘いをかけてきたり求めてきたりしたことも無い。
それに思い返せば、好きだとも愛しているとも聞いたことが無い。

今日も一緒に過ごしたいと言ったのは本多だ。
誘いには「別に構わない」の一言が返ってきて、出勤しなければならないと電話で平謝りしたら「そうか」の一言。
これではどれほどポジティブな人間でも愛されているかどうか不安になろうというものだ。
「“そうか”の一言だけってひでぇよなぁ・・・。」
雑踏を抜け電車を降りて家までの道は人通りもまばらで、つい愚痴が口をついて出る。

言い方も、別に落胆したとかそんな感じは微塵もなくごく普通・・・強いて詳しく言うなら・・・・特に何の感情も篭もっていない声・・・。


「俺、愛されてねぇなぁ・・・」


自分の境遇に街の雰囲気が拍車をかけてどんどん思考が暗くなる。
今頃彼は特に何を思うでもなく自宅でいつも通りの休日の夜でも過ごしているんだろう。
とぼとぼと道を歩きながら御堂を思う。
最後に会ったのは金曜日、それも普通に仕事の用事で、事務的なやり取りをしただけだ。
恋人として過ごしたのは先々週の土曜日が最後だ。
肌を合わせたのはもっと前ではなかったか?
ただでさえ御堂は忙しい。
本多も仕事があるのだから当然、2人で過ごせる時間は限られてくる。
本多としてはその度ごとに御堂の身体も愛したいのだが、御堂がそれを許さないのだ。

一度強引に事を進めて二週間空気のように扱われて以来、御堂が嫌だといえばそれ以上無理強いはできないで居るし。

「あぁ・・・俺ってほんと、報われてねぇ・・・・。」
相手は七歳年上の、プライドも意地も標準を軽く越えた素直じゃない美人。
それなりに覚悟はしていたが、実際にこう素っ気無いとへこみもする。
結局本多は何度ついたか分からないほど溜息を繰り返し、我が家へと帰ってきた。

本当は電話越しでもいい、御堂の声を聞きたい所だが・・・こんな時間に電話しても開口一番「何の用だ」だろう。


ただでさえ幸せのストックが底を付きそうな現状でそんなことを言われたら本多の幸せ銀行は倒産確実だ。


これが恋人の居る男のクリスマスイヴだろうか・・・ともう一度溜息をついて本多はドアの鍵を回した。
外がこの寒さだ、まず暖房をつけねぇと、と考えながらドアをあける。

「・・・?」


部屋の中から、暖かい空気が滑り出してきた。


ハッとして顔を上げれば電気が煌々とついている。




(え、俺、暖房と電気つけっぱなしで出たか!?)




そう思って慌てて靴を脱いだとき、革靴が転がる音に、ドアの開く音が被った。
玄関から真っ直ぐ先の、リビングへ繋がるドアが開いたのだ。

ぎょっとして顔を上げるとそこに居たのは・・・不機嫌そうに眉を寄せて腕を組んだ、さっきまで延々と続いていた溜息の原因になっていた・・・本多の大切な人。



「遅い。全く、些細なミスの処理ごときに無駄な時間を浪費するからいつまでも、うだつが上がらないんだ。」




「み、どう・・・さん・・?」
中腰で左足の靴に指を突っ込んだまま本多が呆然と呟いた。


幻覚か?
いや、都合のいい幻覚ならもっと優しいことを言ってくれるはずだ。



クリスマスイヴに休日出勤で夜遅く疲れて帰ってきた恋人にこんなに容赦ない言葉の暴力を振るうってことは、本物だ。



「待ってて、くれたんすか・・・?」
心底ビックリしましたというのを絵に描いたような顔で聞く本多に御堂の眉間の皺がもう一段階深くなる。
顔立ちが整っているだけに怒った顔も怖いのだが、今日は何となく頬に朱が昇っているように見えて・・・。
「それ以外に見えるか。」
返事は相変わらず素直じゃないが、答えを聞いて本多の中の疑問と混乱が歓喜に染まった。

思わず駆け寄って思い切り御堂を抱きしめる。

「っ、いきなり何だっ離せ!」
普段ならここで言うとおりにするが、今日ばかりは離さない。


だって嬉しいのだ。

自分だけ一方的に気持ちを押し付けてるだけじゃないかと不安になるほど素っ気無い恋人が、それでも自分を想っていてくれているんだと実感できて。


嬉しいのだ。
いつ帰るか分からない自分を待っていてくれたことが。




「あぁ・・・やべぇ、俺・・すげぇ幸せ・・・・」




万感胸に迫る、といった声で本多は呟いた。
倒産寸前だった幸せ銀行も、この出来事一つで既に金庫不足状態だ。
自分より一回り細い御堂の身体を抱きしめて幸せに浸った。
休日でもふわりと香るいつものフレグランスに胸が満たされる。
腕の中にある体温の暖かさに体中、あったかくなる。

さっきまで世界中が自分を笑いものにしているような気がしていたが、今は世界のすべてが祝福の歌を合唱してくれているような気さえする。

「俺不安だったんすよ、予定作るのも求めんのもいっつも俺ばっかりで、もしかして俺が勝手に押し付けてるだけなんじゃないかって。
 でも御堂さんも俺のこと想っててくれたんすね・・・すげぇ嬉しい・・・」

逃れようとしていた御堂の動きが、この一言でハタと止まる。
本多が幸せの実感に浸っていると御堂がぽつりと言った。


「馬鹿か、君は」


と、冷たい声で一言。
本多の身体から一気に力が抜けた。


このタイミングで馬鹿って・・・涙出そうだ・・・・・。


「ここでそれはないっすよ・・・御堂さん・・・・・」
項垂れながら言う本多に更に追い討ちが掛かる。
ふん、と御堂が息をついた。
「馬鹿に馬鹿といって何が悪い。」
「・・・」
さすがの本多もこの一言にムッときた。

「あんたなぁ、」


どんだけ俺が不安だったかと続くはずだった、語調を荒げた本多の言葉は御堂に遮られた。




御堂の、唇に。




「っ・・・」
突然の口付けに本多の目が瞠られる。
視界一杯に映る御堂の顔に近すぎて焦点が合わない。
柔らかな感触に唇が食まれる。

何となく開けた歯列を割って舌がするりと滑りこんで、その感覚でやっと、口付けられているのだと実感がわいた。

わかっても、御堂の手が肩に乗せられるまで本多は何の反応も返せなかった。
何しろ初めてだったのだ、御堂からキスをされたのは。
「っ、ん・・・」
御堂の息遣いで漸く我に返る。
触れ合うだけならそのままで届く身長差も、深く合わせるとなるとそうも行かない。
本多が顔も傾けていないから、自然御堂は本多の肩に乗せた手へ力をこめて少し踵を浮かせながら深い口付けをしていた。

その体勢が急に逆転する。

「んんっ!?」
いままで何の反応も示さなかった本多がいきなり御堂の腰を抱き寄せ、開いた片手で御堂の頭を抱き、深いキスを仕掛け始めたのだ。
壁に押し付けられるようになった御堂に覆いかぶさるように本多のキスが深まる。
「ふ・・んっ、んぅ・・・ぁ、ふ・・・・」
突然攻勢に転じた本多の動きについていけず、御堂が顔を背けようとするがその動きも見透かされていて。
いつのまにか本多の肩に置かれていた御堂の手はぎゅっとそこを掴むようになって、ぴちゃぴちゃと漏れる水音に熱い吐息が混ざって行く。
暫く夢中で舌を絡ませあって、どちらともなく唇を離した。

ぐったりと本多の腕に身を委ねた御堂が息を弾ませながら潤んだ瞳で彼を見上げる。


「これ、で・・、私が、お前の誘いを・・・断らない、理由が・・わかった、か・・・?」


頬に昇った濃い朱色はきっと、キスの余韻だけじゃないだろう。


ちょっと睨むような目つきも可愛く見える。
もちろん、気位の高い恋人が言わんとしていることも。


「愛されてるんすね、俺。」


笑ってそういうと綺麗な藤色の瞳がついと横へそらされた。
「そう、だ。肝に銘じておけ。」
部屋に入るとソファの前のテーブルに軽めの食事とワイングラスが並べられていた。
どれも出来合いのものではないと一目で分かる。
御堂が作ってくれたものに違いなかった。

「すげ・・・・俺、こんなに幸せでいいのかな・・・」

思わずといったように呟く本多に御堂は苦笑した。



いつもいつも年下の相手の性格に甘えて受身で居た自覚はあった。
本多がそれを不安に思っていることも知っていた。
それでも中々自分から動くことはできなくて。
たまには素直になろうと思うのだけど、三十余年で染み付いてしまった性格は思うだけではどうにも覆せなかった。
クリスマスの予定も本多からの誘いを待っていただけだったのだが、それが休日出勤でキャンセルされて漸く御堂は動こうと決心がついたのだ。

いまなら何かできるかもしれない、と。


驚かれるだろうとは思っていたがここまで大仰に驚かれると、そこまで自分の態度は素っ気無かっただろうかと苦笑も零れる。



そう思っていると背後から本多が抱きしめてきた。
「食事も嬉しいんだけど、先に・・・いいすか?」
一度嫌だというのを組み敷かれて二週間無視して以来、いつも本多は事の前にこうして伺いを立てる。

三回に二回の割合で断るのだが、今日くらい、甘やかしてやってもいい。
まぁ、そうそうこういう事が続くと付け上がるからこの先暫くは応じないというオプションも必要だが。

答える代わりにもう一度キスをしてやった。


二回目のキスも御堂から貰い、幸せに眩暈を感じながら本多は夢中で口付けを深めた。


「んっ、ふ・・・っ、んぅ・・・・」
くちゅくちゅと音を立てて舌を絡ませながら、御堂の肩からジャケットを滑り落とす。
セーターに手を掛けると御堂の指が本多のネクタイに掛かり、シュッと音を立てて引き抜かれる。
整った指先が動いて自分の服を脱がせて行く様子を見るのが本多は好きだ。

あの御堂孝典が、自分とセックスするために自分の服を脱がせていると思うとそれだけでゾクゾクする。

薄目を開けながら本多の服を床へ落として行く御堂を目で追っていると、「何を見ている」とでも言いたげに藤色の瞳が睨んできた。
応えるように、御堂の服を脱がす手の動きを早める。
シャツを肌蹴させ、肌理細やかな白い肌に手を這わせながらベッドへその身体を押し倒した。








「っ、ん・・・、くぅ・・・っっ」
濃密な空気に、噛み殺しきれなかった御堂の喘ぎ声が混ざる。
本多はぷくりと立ち上がった胸の飾りを吸い上げ、透明な蜜を零し始めた御堂のものをやわやわと刺激しながらチラリと御堂へ視線を流した。
「あっ、はぁ・・・っ、ん、んぅ・・・・」
刺激を送るたび、細身の身体がヒクリと反応して小さく声が漏れる。
滑らかな頬は上気して、眉も切なげに寄せられていて。

でも、目を開けてくれない。
声も可能な限り唇を噛んで押し殺している。

「御堂さん・・・」
胸の愛撫を唇から指に変えて、噛み締められた口許に触れるだけのキスを幾つも落とす。
潤んだ若紫の瞳がやっと本多を見た。


「声・・・」
「いや、だ・・・ぁっ、」


皆まで言うのも待たず否定が返される。
口を開いたために甘い声が微かに漏れ、御堂は責めるように本多を睨む。
本多は御堂が感じている姿をもっと見たいのに御堂は意地で押し隠そうとする。

敏感な身体は最初に触れた頃よりもずっと快楽に弱くなっているのに。

「素直に感じてください・・・御堂さん」
言いながら、性器を強めに扱くと小さく身体が跳ね上がった。
「ぃ、あぁっ!や、め・・・っ、ッッ!」
シーツを掴んでいた指が本多の肩に掛かる。
押し戻そうと込められる力を無視して先走りを塗り広げるようにしながら御堂の中心を愛撫する。

「っう・・・!!」

くん、と喉が反って、指にも力が入るのだが、御堂はやはり声をかみ殺した。
胸の奥に焦げ付くような感情を覚えて本多は衝動のまま身体をずらした。
すらりとした脚を思い切り左右に割り開きその中心に顔を埋める。
「なっ、やめろ・・・ひぁっ、くぅ―――!!」
膝裏を掴んで両脚を固定した状態で本多は会陰から性器の先端まで一息に舐め上げる。
本多の頭を引き離そうとしていた指が思わずその髪をわし掴む。
御堂の背が大きく撓り、甘い悲鳴が響いた。

だが御堂はそれも咄嗟に押し殺す。

「御堂さん・・・」
呆れたような怒ったような声が聞こえ、薄っすらと目を開けると本多が複雑な顔で見ていた。
言いたいことは分かっているのだ。


「ぃや、なんだ・・っ、こっちの、身にも、なれ・・・っ」


息を喘がせながら御堂が訴える。
本多もまた御堂の主張したいことは理解している。

最初に肌を重ねたときも散々文句を言われたのだ・・・御堂が本多を受け入れる側であることに対して。


想像しかできないとはいえ、御堂の気分が複雑なのはわかる。


本多のほうが年下で社会的な地位も下で。
そもそも男として不自然なポジションであるのだし。




だがそれでもやはり、自分の愛撫に感じるまま乱れる御堂が見たい。




御堂の脚を掴む手にグッと力が篭もる。
「今日は、嫌です」
搾り出すような答えを御堂が理解するより早く性器を口に含んで吸い上げるように扱いた。
「ぃ、あぁぁっ・・・!」
同時に先走りでベタベタになった指が最奥に滑り込む。
不意打ちで襲ってきた強い刺激に耐え切れず、御堂が嬌声を上げた。

耳に届いた自分の声に御堂の頬がカッと染まる。

「やめっ、ほんだ、ぃやだ・・っ、あ、ぁあ・・っっ」
頭に添えられた御堂の指が痛いほど髪をひっぱってくるが、本多は激しい口淫を止めない。
耳を打つ御堂の快感を訴える悲鳴が、理性を吹き飛ばしていた。
身体をずり上がらせて逃げようとする御堂の細い腰を抱くようにして引き寄せる。
唇で扱き、先端を吸い上げ、鈴口を舌で抉るようにしながら確実に後孔を解して中を開いて行く。

「あぁっ、あっ・・ん、く、アッ―――!」

全身を襲う強すぎる快感に御堂が悶える。
恥知らずな声を上げたくないのに唇を閉じる余裕が無い。

必死で首を振って訴えるが、それさえも本多の欲を煽るだけに終わって。

「ほ、ん・・だっ、あっ・・・も・・やめっ、んぅぅ・・・!」
きつく閉じた目尻から涙が滲んで零れる。
いつもの本多ならばそれを見て攻める手を緩めたかもしれないが、堰を切った欲望がそれに勝った。

「もっと…見せてください……俺を感じてるとこ……」

常より乱れさせられている御堂の姿に息を荒らげながら本多が耳許で囁く。
止まらない手の動きに喘ぎながら御堂は小さく首を振った。
藤色の瞳が縋るように見上げてくる。
「ほん、だ・・・っ・・・・・ほんと、に・・・っ、アッ、これ以上は・・・・・」
切羽詰まった表情がブレーキを掛けるのに、快楽の色が濃い頼りなげな姿はそれ以上に欲望を刺激してくる。

「すみません・・・今日はもう我慢出来そうにないんです・・・今日だけ・・好きにさせて下さい。」

答えを待たず、本多は充分解けた後孔から指を引き抜き猛った自身をあてがった。
御堂の意識がそれを認識するより早く、次に何を為されるか知っている身体が無意識に強ばる。
何時ものように深く唇を重ねて優しく口内を愛撫する。
ゆっくりと角度を変えながら何度もキスをすれば、やがて御堂の身体から強ばりが抜けて行った。
見逃さず、本多はキスをしたまま中へと腰を進めた。

「ッッ―――!!」

御堂の手が本多の肩を掴む。


拒むのとは違う、縋るようなこの動作が本多は好きだ。
久々に彼を受け入れる身体の締め付けに眉を寄せながら口元には満たされた笑みを浮かべる。


挿入の時に離れた御堂の唇から苦しげな息が漏れる。
タイミングを合わせて、本多は自身を埋め込んだ。
「っ、んんっ・・くっ、ふぅ・・・・っ」
本多の長く太いものが狭い入り口を割り広げる痛みと、押し入ってくる質量が与える圧迫感に御堂が本多にしがみつきながら声を漏らす。


普段は本多に助けなど求めない彼がこの時ばかりは酷く脆いものに見えて、日常どこかで物足りないと思っていた部分が満たされる。


ぐ、と腰を進めて本多は昂った雄を毛際まで完全に押し込んだ。
「っ、う・・・はっ、ぁ・・・・」
触れるだけのキスを御堂の頬や額に落とし、落ち着くのを待ってからゆっくりと腰を使い出す。


いつもは御堂が嫌がるからあまり狙わない、最も快感を感じる場所を狙って。


「あっ、っ!」

先端が触れた瞬間、御堂の身体が小さく跳ねた。

やや血の気の引いていた頬に艶めかしい紅色が宿る。
「ひぁっ、アッ、や・・そこ、やめ、っ、あぁぁッッ!」
いつもは時折少し刺激するだけのそこを続けざまに強く責められ始めて御堂が切羽詰まった声で喘ぎ混じりに抗議するが本多は取り合わない。

走る快感に身悶える御堂の艶やかな痴態。
耳を打つ、えも言われぬ嬌声。


我慢など出来よう筈もなかった。


逃げようとする御堂の細い腰を掴んで、更に深く穿つ。
「ひぁああっ・・・!」
全身を貫くような快感に御堂は堪らず声を上げた。
意図など放り出され、身体が勝手に跳ね、撓り、彼を組み敷く男を歓ばせる。
行為の時に理性を手放すなど嫌だからと今まで本多を抑えさせていたのに、これでは、理性が飛んでしまう。
御堂は必死で本多を引き離そうと腕を突っ張った。
「や、あぁっ・・ほ、だ・ッッ、ぃ、かげ・に・・・っ、やめ・・!あああぁっ!!」
御堂の無駄な抵抗は本多の欲を燃え上がらせるだけに終わる。
突っ張った手首を捕らえられてシーツへ縫い付けられ、そのまま思い切り突き上げられた。
「ッッ――――!」

突き抜ける快感に声も出せない。


いつも乱されすぎないよう本多を抑えていたから、御堂はここまで感じたことがなかったのだ。



堪らない。



このまま続けられたらどうにかなってしまいそうで、やめさせたいのに、抑えつけられた手はびくともしない。
本多に懇願するのが如何に不本意だろうとそれしかしようがないと、御堂は切れ切れに訴えた。




「ほ、だ・・っ、も・・・やめ・・ッッ、ぉねが・・・だ、から・・・・!」




「っ・・・」




淫楽に襲われ熱を孕んで揺れる紫水晶の瞳からポロポロと涙をこぼし、切なげに眉を寄せた御堂の哀願が本多を揺さぶった。

残念ながら、御堂の希望とは・・・逆の、方向に。










「・・・・」

晴れやかな朝の光が降り注ぐベッドの上。
目覚めた御堂は身体の重さと腰に感じる鈍い痛みに深い深い谷間を眉の間に刻んだ。

あの後散々好きにされた。

止めろと言っているのに奥の一点をこれでもかと言うほど攻められた。
熱い肉棒の先で抉り擦り突きまわして。
御堂はシーツに両手を押さえつけられて為す術も無く翻弄され、あられもない声を延々上げさせられた。
幾ら制止しても聞き入れられず、本多の欲望が暴走するままに攻められ啼かされ。

最後にはお願いだから許してくれと懇願まで。


「っ・・・」


その時の自分の声が鮮明に脳裏へ蘇り、御堂は小さく呻いて顔を枕に埋めた。
頬は湯気が出るほど紅い。

本多と付き合い始めて、彼に抱かれる側になって、初めてあそこまで乱れさせられた。

いままではベッドの上でも御堂が本多を制御できていたから理性が飛ぶほど攻めるのを許さずに居られたのに。
男に抱かれるというだけでも御堂にとっては相当に受け入れがたいことで、まして男に抱かれて喘ぎ悶えるなど言語道断のはず。


でも



「・・・・気持ちよかった・・・」



ぽろりと御堂は零した。


抗いながらも本多に貫かれ乱され啼かされて迎えた絶頂は最高に善かった。
事実、何度目かの絶頂に浸った直後意識を飛ばして気付いたら朝だったのだ。

脳髄まで貫くほどの快感。

身体中が性感帯になったように溺れる淫楽。


最奥に本多の熱を注がれる充足感。



自分を抱きしめる逞しい腕に感じた、安心感。





――――気持ちよかった。





気配を感じてチラと視線を上げると、風呂に繋がる廊下のほうから本多が歩いてきた。
見上げる御堂の視線に口許を引き攣らせる。

大それた事をしたという認識はあるらしい。

「おはよう・・ございます・・・」
恐る恐る・・・と言った様子の挨拶がなんとも情けない。



まったく・・・覚悟もなしにあんなことをするなというんだ、と御堂は内心で溜息をついた。



ふてぶてしく居直っていれば自分の気持ちを誤魔化して制裁なり何なり与えられたのに。


「本多」
声と目線だけで傍へ来るように伝える。
しかられた犬のような情けない顔で本多はベッドの近くに来た。
何を言われるか分からないが取り合えず御堂の機嫌を損ねただろうことは確信しているのだとアリアリと態度に出ていて面白い。

口許に笑みを浮かべ、御堂は半身を起こした。






帰りの時間も分からないのに待っていてやったことも、二度も私からキスしてやったことも、好きにされたのを許してやることも、全部ひっくるめて――――




「Merry Christmas」




―――イヴをミスの処理に費やした馬鹿な恋人へのクリスマスプレゼントにしてやる。









目を丸くした本多の首を掴んで、御堂は噛み付くようなキスをした。

















年を跨いでしまってすみませんorz漸くUPできました!
そして前半をUPしたときに頂いた皆様からのツッコミで本多の扱いの酷さを反省しまして、最後は御堂さんにエロデレと化していただきました(笑)
もうすこしエロを濃くする予定でしたがまあ、本ミド初エロということでご容赦いただければと(笑)
いずれ「青天の霹靂」から続くシリーズの中でこの2人の初夜のすったもんだ(爆)は書かせていただきます!書くの楽しみ(笑)
今年もメガミドメインを謳いつつ本多相手に御堂さんのツンデレっぷりをツン多めに発揮させていこうと思います☆本年もよろしくお願いいたします!