そのころ、R義母さまとお二人の克哉姉さまたちはお城にお着きになったところでした。
横付けされた馬車からお三方は意気揚々とお城へ入っていきます。
お城の大広間は煌びやかに飾り付けられ、様々に着飾った娘たちで溢れておりました。
華やかな音楽、豪華なお料理。

でもそんな中、主役であるはずの孝典王子のお顔は冴えません。

軍の第一礼装に金の房飾りの下がった肩章と、同じく金の飾緒、そして真紅に金の縁取りがされた飾帯を付けたお姿は一層凛と端麗で、
広間に居られる娘たちは少しでもお傍に参ろうと必死です。
王子様はそんな娘たちの香水やお化粧の匂いに酔って仕舞われたのか、ご気分が優れないのでした。
「どうかね、これだけ娘がいるのだ。一人くらい良い人がいるのではないかな?」
声をかけたのはこの国の王、大隈陛下です。
孝典王子は複雑な苦笑いを返しました。
「父上、どうしても今日でなければならないのですか?そう焦ることもないと思うのですが。」
「何をいいだすのだ。全く。もう今年で32なのだから早く身を固めて世継ぎを儲けてわしを安心させてくれたまえ。」
そういって陛下は行ってしまいました。
孝典王子からまた溜息が漏れます。
少し外の風に当たろうと、王子はそっと広間を抜け、バルコニーを降りて庭へといらっしゃいました。

その背後で目配せする金髪の二人組みがいたことに、王子様は気付きませんでした。



「お疲れのようですね」
「!」

お庭に出られて少ししたとき、突然後ろから声をかけられて王子様は大変驚かれました。
武に秀でた王子様にも、気配が感じられなかったのです。
慌てて振り返るとそこには、闇に解けそうな黒いドレスを着た金髪の婦人と娘がいました。

片方は手に縄を、片方は手に鞭を持っています。

「な、何者だ」
その余りに禍々しい二人をみて王子様は剣に手をかけそうになりましたが、曲がりなりにも相手はご婦人なのだからと思いとどまられました。
しかしその直ぐ後に、王子様はその選択を後悔なさることになります。

瞬時に背後へ回った長い三つ編みの婦人が王子様を後ろ手に縄で戒めたのです。


「貴様っ、何をする!!」


驚嘆して後ろを振り仰ぐ孝典王子にR義母さまは妖しげに微笑みました。
「貴方は我が王が手ずから調教されるに足る何年に一度かの逸材・・・ですが、逸材であればあるほど
 往々にして素直ではいらっしゃらないもの。ですから殿下にも少し大人しくしていただこうと思いまして。」
そういって愉しげに笑われるR義母さまに、王子様の頬が引きつります。
「そう」
という声を上げたのは正面にいる上の克哉姉さまです。
R義母さまばかりに意識がいっていた王子様はハッとして視線をもどしました。
その頤(おとがい)に鞭が添えられ、くいと持ち上げられます。
もちろん、その鞭を手にしているのは克哉姉さまです。
「あんたは今から俺のおもちゃだ。楽しませてくださいね、孝典皇太子殿下?」
「ふ、ふざけるな!縄を解け!!くそ・・っ、衛兵!!誰か!!!」
王子様は良く通る声を張り上げられましたが、不思議なことに誰一人として駆けつけません。
沢山の人が集まるパーティーの日ですから警備も厳重になっているはずですが、
その辺りはお話の便宜上ということで納得していただくしかありません。
王子様は何とか逃れようと身を捩りますが、後ろからR義母さまがお身体を押さえられていてビクともしません。
そして、そうこうしている間に克哉姉さまは王子様の立派なお召し物を次々と脱がせていってしまいます。
「やめっ・・・!何を、よせっ、やめろ!!」
王子様は必死で暴れます。
R義母さまは難なくそれを押さえ込んで、王子様の耳の裏をいやらしく舐め上げました。
「ひ・・・っ!」
突然の刺激に王子様が小さく悲鳴を上げます。
「感度もよろしいですねぇ・・・これは、楽しみです。」
「は、なせっ・・・!」
王子様が顔を背けてもR義母様は耳を責めるのをやめません。
そしてそちらに気を取られているうちに、克哉姉さまは王子様の上着を大きく肌蹴られてしまいました。
ハッとして目を合わせた王子様に克哉姉さまは含みのある笑みを向け、シルクのブラウスに薄っすらと透ける胸の飾りに舌を這わせます。
「つ、ぁっ・・・!」
王子様の上ずったお声が、誰もいない庭に響きました。







そのころ、広間では、新たに姿を見せた一人の姫君に全ての方の視線が釘付けになっておりました。



最上級の布で最上級の職人が仕立てたと一目でわかる美しい絹のドレス。

その繊細なレースで飾られた胸元からは立派な胸筋に続く盛り上がりが覗き、
ふんわりと形作られた袖からは見るからに屈強な二の腕がその筋肉美をさらしております。

身体のラインを慎ましく魅せるドレスに理想的に割れた腹筋が浮き上がり、逞しい胴回りを強調します。

そして計算されつくした優美なドレープを作るドレスの裾を無骨な指が摘みあげるたびに
たっぷりとフリルをあしらったペチコートから覗く厚い筋肉に覆われた足には、

もう華奢な美しさなど微塵も感じられないほど大きなガラスの靴が嵌っているのが見えるのでした。



その姫君が広間を進むと、人々は口々にささやきました。
一体どこの国の姫君でしょう。
あんなに素晴らしい(筋肉を持った)姫君は見たことがない。
お名前はなんとおっしゃるのかしら。
今まで社交界にお出でにならなかったとは、なんと奥ゆかしい方か。
あのお身体を支えても割れないガラスの靴とは、どこの国の先端技術でしょう。
など、広間は静かな囁き声で満ちていきます。
その中には、王子様の姿を探していた下の克哉姉さまもいらっしゃいました。

「ホンデレラ・・・・?」

下の克哉姉さまはやや頬を引きつらせながらつぶやきます。


そう、その姫君は、片桐さんが魔法で着せた美しいドレスを纏い、
片桐さんが魔法で馬車や御者に変えたネズミたちによってお城までやってきたホンデレラだったのです。


「あ、克哉!」
下の克哉姉さまを見つけたホンデレラは急いで駆け寄りました。
先ほどから広間にR義母さまと上の克哉姉さまの姿、そして王子様の姿が見えないことに、ホンデレラは嫌な予感を覚えていたのです。
駆け寄ってくるホンデレラを見て後ずさりかける足を下の克哉姉さまは必死で抑えました。
愛らしいドレスからスネ毛も鮮やかな足を覗かせ
険しい顔で突進してくるホンデレラの姿は・・・筆舌に尽くしがたいものがあります。
「な、なんだよホンデレラ・・・っていうか何でここにいるんだよ?!」
その恐ろしいサイズのドレスは一体どこから調達したものなのか、そして何に乗ってここまで来たのか、下の克哉姉さまは問いただそうとしました。
しかし、それより早くホンデレラがまくし立てました。
「R義母様と克哉姉さまは?!王子様はどこにいるんだ!あいつらと一緒にいるんじゃないだろうな!?」

「えっ?Rお母様と<俺>?それに孝典王子様?え、いや、俺は知らないけど・・・そういえば三人とも同じころから姿がみえないような・・・・」

「なんだと!?」

耳元で叫ばれ、下の克哉姉さまは不快そうに顔を顰められます。
それでもホンデレラは構っていられない様子で、血相を変えてお三方の居場所を問いただします。
知らないと繰り返される下の克哉姉さまのお顔が三つか四つに分裂して見えるほど
肩を前後にゆすられていらっしゃるのを見て慌てた周囲の方がホンデレラをお止めになります。
興奮状態のホンデレラに、傍にいらっしゃったご婦人が恐る恐る声をかけられました。
「王子様なら先ほどお庭へ行かれるのを見ましたわ」
その一言にホンデレラの顔が俄かに晴れます。
「それ本当か!?」
「え、ええ・・・確かにバルコニーからお庭へ」

「サンキュ!」

ホンデレラは再び豪快にドレスの裾を持ち上げると、ヒールの音もけたたましくバルコニーから庭へと全力疾走いたしました。
それを唖然として見送った、下の克哉姉さまと広間の方々は、
一様に何か得体の知れないものを飲み込んでしまったようなお顔で暫く固まっておられました。
ホンデレラはバルコニーのドアを突き破るように開け放ち、お庭へと出られました。
お庭は広く、また夜の闇に沈んで視界がききません。

王子様はどこにいらっしゃるのでしょうか。

ホンデレラは広いお庭のどちらを探すべきか分からず、数瞬、足を止めて躊躇しました。


微かにお声が聞こえたのはその時です。





「―――めっ・・・や、――――ぁっ」
「!」





それが孝典王子様のお声かどうかは、ホンデレラにはわかりませんでした。
ただ、尋常でない事態に巻き込まれている方の声だということは、その切羽詰った様子から知ることができます。
ホンデレラはたとえそれが王子様でなくとも助けなければと、声のするほうへ駆け出しました。
するとどうでしょうか。

植え込みの中へと続く小道を進んだ先にいらっしゃったのは、探していたお三方に違いありませんでした。


しかしR義母さまは孝典王子様を後ろから抱きこむようにして押さえ、
上の克哉姉さまは前から王子様に覆いかぶさるようにして胸の辺りに顔を埋め、
孝典王子様は二人に挟まれて見動くことも出来ない様子で切なげに顔をゆがめて艶めいたご様子で荒い息をくりかえしていらっしゃったのです。


ホンデレラはあまりのことに、とっさに木の陰へ身を潜めてしまいました。
すると色の乗った艶やかな声が。
「ふ、ぁ・・っ、やめ・・・、はな、せ、あっ・んぅ!」
孝典王子様です。
普段のお声も独特の艶があるものではありましたが今のお声はその比ではありません。
ホンデレラは初めて聞く王子様の嬌声に頬を染めました。

「ふっ・・・感じたのか?見ろよ、あんたのココ・・・
 こんなにイヤらしい色になって、こんなに硬くなって・・・白いシャツから透けてて、エロい乳首だ。」

ねっとりと這うような言い方は上の克哉姉さまです。
ホンデレラは我慢できず、木の陰からそっとそちらを覗きました。
おっしゃるとおり、ブラウスの上から執拗に舐められた王子様の胸の飾りはぷっくりと立ち上がって、
そこだけ色が薄くなった布地に透けて淫靡に見えます。
「う、るさいっ・・・私はっ、感じてなど・・・ん、ンンっ」
「嘘をおっしゃい」
滑らかに音を紡ぐお声はR義母様のものです。
黒い革手袋に包まれた義母様の手は王子様の腰を撫でておられましたが、それをそろりと前へ滑らせ、王子様の大切な部分をやんわりと握られました。
「うぁっ!」
ぴん、と王子様が背を撓らせます。
「ふふふ・・・ほら、硬くなっておいでですよ?淫乱なお身体ですねぇ」
王子様は唇を噛み締めながら首を振ってその言葉を否定しようとなさいますが、お二人の責める手は止まりません。
上の克哉姉さまが胸を愛撫しながら両手を王子様の背後に回します。
ホンデレラの位置からは何をしたか見えませんでしたが、身体を強張らせる王子様の様子から、おそらくは臀部を揉み始めたのだとわかりました。

「んっ、んぅ・・っ、や、やめ、ろ・・・っ、はっ、あぅ・・・!」

胸を吸われ、臀部を揉みしだかれながら自身も愛撫され耳を舐められ、王子様の端正なお顔が熱に浮かされるように蕩けていかれます。
淫らな刺激に潤んだアメジストの瞳が宙をさまよい、ホンデレラは息を呑みました。

可憐なドレスの下で、それに似つかわしくないものへ血が集まっていくのが感じられます。

ホンデレラはこれ以上見るのは都合が悪いと思い切り、木の陰から飛び出しました。



「おい、Rに克哉!なにやってんだ!!」



三人は驚いて振り返りました。
「なっ、お前・・・!」
上の克哉姉さまがホンデレラを見て声を上ずらせます。
R義母さまも、この展開は予想しておられなかったようで直ぐには反応を示せずにいるようでした。
孝典王子様も突然現れたホンデレラに、ご自身の状況も忘れて固まっていらっしゃいます。
「皇太子殿下から離れろ!」

ホンデレラとR義母さま、そして上の克哉姉さまの間に一触即発の空気が流れます。
ピンと張り詰めた静が、動に変わろうと弛んだ一瞬。

動いたのは孝典王子様でした。

「っ!」
「な・・・っ」
ご自身から意識を逸らしていたR義母さまの鳩尾に肘を突きこまれ、身を屈めて拘束する腕から抜け出すと、
その低い体勢のまま上の克哉姉さまの脚を払われたのです。
ホンデレラに注視なさっていたお二人は溜まらずバランスを崩し、王子様はお二人の間から逃げることができました。
迷わず、王子様はホンデレラに駆け寄ります。

「私の剣を抜け!」

「へ?」
「剣を抜けっ、縄を切りたい!」
思わず間抜けな声を上げたホンデレラに孝典王子様が声を荒げます。
ホンデレラは慌てて、王子様の腰に下がった細身の剣を抜き、慎重に縄を切りました。
孝典王子様は剣を使ってR義母さまと上の克哉姉さまを牽制しようと、自由になった手でホンデレラから剣を取りましたが、
R義母さまと上の克哉姉さまはそれを待たずに闇に消えてしまいました。

「また、遊んでくださいませ」
「必ずあんたを堕としてやるからな、王子様」

と、不気味な捨て台詞を残して。

王子さまは呆然と、お二人が消えていった方向を見つめました。
「なんだったのだ、一体・・・」
一方ホンデレラはそんな王子様のお姿に平静ではいられませんでした。
王子様のお衣装は着乱れ、上の克哉姉さまの唾液で透けたブラウスの一部からははっきりと紅色の胸の飾りが見えるのですから。
ホンデレラが目のやり場に困りつつもついつい視線を這わせていると、漸く王子様がホンデレラに向き直られました。
「君のおかげで助かった。礼がしたい。名は何と言うんだ?」

やっと王子様が自分のほうを見てくださったと心を浮き立たせたホンデレラでしたが、その一言で喜びはあっという間にしぼんでしまいました。


王子様はホンデレラのことを覚えていらっしゃらなかったのです。


「覚えてねぇのかよ・・・」
「何?」
呟くように言ったホンデレラに孝典王子が短く聞きなおした時、建物のほうから王子様を呼ぶ声が聞こえてまいりました。
広間を抜け出されてお姿が見えないことを心配した大隈国王陛下が衛兵に命じてお探しになっているようです。
孝典王子は名を言おうとしないホンデレラに少し眉を潜めると、ご自身をお呼びになる声に応えようとなさいました。
「呼ばれているから失礼する。」
そういってその場を離れようとなさった王子様の手を、ホンデレラは咄嗟に掴んで引き寄せ、
ホンデレラよりは線の細いそのお身体を屈強な腕の中へ閉じ込めました。

「なっ」

抱きしめられた王子様は、突然視界がホンデレラの胸板で埋め尽くされ、ギョッとしてホンデレラを見上げました。
王子様よりも上背のあるホンデレラから見ると王子様の視線は自然と上目遣いになり、
呆気に取られて無防備なお顔をなさっているご様子に、一瞬、ホンデレラは我を忘れました。

そして気づいたときには、王子様に口付けていたのです。


「んんぅっ!?」


王子様は驚いて、ホンデレラの腕の中から逃れようとなさいます。
しかし毎日無駄に筋肉トレーニングを重ねているホンデレラの腕力に、週二回のジム程度の筋力では敵いません。
ホンデレラはどこか現実的な思考力を失ったまま、深い口付けを続けました。
「っ、はぁ・・・」
そしてそれを漸く解いた時、腕の中にいらっしゃる王子様の息は荒く頬には朱が昇り瞳は涙の幕で潤んで、扇情的なご様子になっておいででした。

「な、な、貴様っ、何を・・!!」
「!」

王子様の上ずったお声でホンデレラは漸く、自分がしたことを認識しました。


と、同時に、王子様と同じ位かそれ以上にホンデレラは動揺しました。



(な、な、な、俺、今、何を!!)



確かにホンデレラは王子様のことを思い出すたび胸が高鳴るのを感じておりましたし、孝典王子様のことが気になっていたのも事実です。
しかしだからといって、突然キスをする理由には到底なりません。
第一ホンデレラが口付けたのは全くの衝動で、我に返った今となっては何故自分がそのようなことをしたのか検討も付きませんでした。

そのホンデレラの首筋に白刃が当てられました。


「ひっ?!」


視線を戻せばそこには憤怒の表情をなさった孝典王子が、抜き放った剣を突きつけておられるではありませんか。

「貴様!答えろ!!」
「え、いや、その・・、キスを」

何をと言われればそう答えるしかありません。
正直に答えたホンデレラの首に剣の腹が食い込みます。
日本刀のような腹で斬る種類の剣ではなく切っ先で刺す種類のものでしたので、大事はありませんでしたが。
それでも剣は剣。
ホンデレラの頬が引きつります。

「理由を言え。何故キスなどした!」
「ぅ、それは・・・なんつーか・・・・」

何故キスをしたのかはホンデレラにもわかりません。


しかし王子様の剣幕を見る限り、分からないでは解放してもらえそうにありません。



ホンデレラが返答に窮したときでした。








ゴーン・・・ゴーン・・・








お城の大時計が12時の鐘を打ち始めたのです。


「!!」


ホンデレラはハッとして顔を上げました。


魔法使いの片桐さんは何とおっしゃったでしょう。
そう、確か。

「ホンデレラくん、僕の魔法は夜中の12時になると解けてしまうんですよ。だから、お城の時計が12回鐘を打ち終わる前に必ず帰って下さいね。」


魔法が解けてしまったら。
ホンデレラのドレスはもとの汚いそれに戻って、家に帰るための乗り物もなくなってしまいます。


「王子様、ごめん!俺いかねぇと!!」


「は!?」
言うや否や、ホンデレラは駆け出しました。
四回目の鐘の音が響きます。
「なっ、待ちたまえ!!」
王子様もホンデレラを追って走り出します。
ホンデレラは全速力で大広間を駆け抜け、建物から飛び出すと正面の大階段を駆け下ります。
しかし履き慣れない靴では走りにくく、鐘の音が回数を重ねていくというのに、思うように走ることが出来ません。
「くそっ!」
ホンデレラはガラスの靴を脱ぎ捨てました。
捨てていくのも忍びないので腕に抱えて走りますが、階段を一段踏み外しそうになったとき、片方が零れ落ちてしまいました。
「げっ」
拾おうかと一瞬足を止めましたが、鐘の音と王子様の足音がホンデレラにそれを許しませんでした。
ホンデレラは靴を片方階段に残したまま、一目散に階段を駆け下ります。

お城が見えなくなったとき、時計が12回目の鐘を鳴らし、ホンデレラの魔法が解けました。


魔法はほのかな光を残して消え、美しいドレスは元のボロ着となり、馬車はかぼちゃに、御者はねずみに戻ってしまったのです。



「・・・・」



ホンデレラは元に戻った自分を少し切なげに見やり、それから、木々の向こうに見えるお城を振り返りました。


思い出されるのは、腕の中にあった体温です。




「どうしちまったんだよ、俺」




ホンデレラは、孝典王子様に抱いた感情を受け止めきれずにおりました。



それでももう、お会いすることもないでしょう。

あの方は一国の皇太子。
そしてホンデレラは下働きのような身分なのですから。



「ホンデレラ、大丈夫ですか?」
魔法で御者になっていた藤田が心配そうにホンデレラを見上げます。
ホンデレラは少し笑って頷きました。
「ああ、なんともねぇぜ。お義母さまと義姉さまが帰ってくる前に家に着かなきゃな!」
そういうとホンデレラは、上の克哉姉さまが王子様に執心だったと聞いて意気消沈している秋紀と
下の克哉姉さまが王子様とあまりお過ごしにならなかったと聞いて上機嫌の太一を、藤田と一緒にドレスのポケットに入れて歩き出しました。

もう片方のポケットに、ガラスの靴を大切にしまって。





ホンデレラは急いで家に帰り、夜遅く帰ってこられた義母さま方を出迎えました。

「ぶ、舞踏会はいかがでした・・か・・・」


引きつった顔で尋ねるホンデレラに、R義母様は手枷を、上の克哉姉さまは鞭を、下の克哉姉さまはロウソクを手に微笑んで言いました。



「孝典王子様は私の予想通り素晴らしい素質を持った方でしたよ。邪魔が入らなければこちらにお連れして最高の玩具にできたのですけどねぇ」

「ああ、母上の言うとおりだ。あいつは俺の下に堕ちてくるはずだった・・・邪魔が入らなければ、な。」

「うん、孝典王子様は噂どおり凄く立派な人だったよ。俺ももっと話そうと思ったんだ。誰かが騒ぎ立てて王子様がいなくなってなければ、ね。」





その夜ホンデレラの暮らすお屋敷からは男の悲鳴が耐えなかったとか。
















ホントすみません、もう一話続きますorz