その瞬間、御堂は勝ち誇った視線を克哉に向けた。



流れるようにプレゼンを続けながら、切れ長の涼しげな紫苑の瞳だけが彼に向かって得意げに微笑む。
ローターのリモコンを握る克哉の手にギリ、と力が入る。

今頃この男の尻の中で彼に屈辱と快感を与えているはずだった球状の物体は、ゴミ箱の中かどこかで惨めに震えていることだろう。






脅しさえすればこの男は必ず克哉の要求に従うだろうと思っていた。
初めて陵辱した日ビデオに納めた映像を会議室のモニターに流すと脅しさえすれば、
克哉の言葉を信じたときと信じなかったときのリスクを天秤に掛けて必ず要求に従うだろうと。


それはブラフだったが・・・・まさか、読まれるとは。


御堂はその後淡々とプレゼンを続けた。
明確な説明、的確な報告、出席者たちを唸らせるほど完璧なプレゼンだった。

克哉は、下請け会社の営業、というだけの存在でただ御堂の隣に座っていただけ。




「悔しそうだな、佐伯克哉」

プレゼンが終わり、全員が出て行くと御堂は言い放った。
形のいい唇の両端を引き上げ、勝者の笑みを浮かべながら。

克哉は無表情にそれを見返す。


だが内心は荒れ狂っていた。
この、思い通りにならない男は、どうすれば自分の求める場所まで堕ちてくるのか。


「見くびってもらっては困る。貴様は下請け企業とはいえ部外者。そんな人間が会議室に易々と入り、
 あまつさえ社員しかパスワードを知らないパソコンに小細工など出来るはずがない。
 それくらいのことを、私が判断できないとでも思ったか。」

会議の前にローターを渡され脅されたとき、御堂は一時、克哉の術中に嵌りそうになった。


しかし直前でそのことに気付いたのだ。
ほぼ全ての部屋に電子ロックがかけられ、IDカードをリーダに通さなければ開錠できない。

子会社であるとはいえ他社からの来客である彼は受付から会議室まで行くのに社員の同伴を逃れられないはずだ。


確認した所、受付から誰かが彼を会議室へ案内した事実はなかった。


御堂は無表情のまま自分を見ている男に一歩近づいた。



「全てがお前の思うままに動くなどと思い上がるな」



そのまま会議室をあとにする御堂を、克哉は止めずに見送る。
ドアが閉められるのと同時に嘲笑が漏れた。





「あんたこそ、俺を見くびるなよ。全ては俺の思うままに、動くんだ。」






唇が笑みの形に吊りあがる。

邪悪という言葉を体現したかのような笑みを浮かべて、克哉は低い笑い声をあげた。



今回は失敗したが、二度と失敗はしない。




そして







「御堂孝典・・・俺に逆らうとどうなるか、たっぷり教えてやろうじゃないか」







克哉は会議室を出る。
その足は真っ直ぐ、御堂の直属の上司である大隈専務の執務室へと向いていた。










突然現れた、下請け会社の営業に大隈は不快感を隠さなかった。
御堂と同じ態度だが、克哉は心の中でそれを嘲笑しただけだった。
すぐに態度を変えるという確信があるからだ。

「で、キクチの営業が何の用だ。私は忙しいんだが。」

今日御堂が克哉の思い通りに動いていれば、この男の態度はもう少し違うものだったはずだが、
今の克哉は“下っ端の営業”という程度の存在でしかない。
その評価を引き上げ、同時に御堂を貶めるために彼はここにいるのだ。
克哉は慇懃な笑顔を作ってみせる。
「お忙しいのは重々承知して折ります。しかし私の用件は、お忙しい大隈専務にお時間を割いていただく価値のあるものだと確信しております。」
大隈の太い眉が片方だけ上がった。
「ほぅ?それで、その用件というのはなんだ。」

克哉は徐に一枚のディスクを取り出して胸の辺りに掲げる。

何の変哲もないDVDディスクだ。
しかしこの中には目の前の男が密かに欲しているものの全てが納まっている。

「これです」
もったいぶった言い方に、大隈が眉を顰めた。
「それは?」
やや声に苛立ちが混ざる。
克哉は余裕の笑みを崩さない。

「このディスクは貴重な映像を収録してありまして。これを使えば、専務は人知れず欲していらっしゃるある人物をいとも容易く手に入れることが出来ます。」

大隈の表情が僅かに強張る。
秘密の核心に触れられ、本当に克哉がそれを正確に把握しているのか警戒したのだ。


克哉は知っている。

大隈が御堂に性的な欲求を抱いていることを。


御堂の肢体を見る目つき、彼に触れる手つき。
それと意識してみていれば直ぐに分かる。

だが御堂が素直に身体を与えるはずもなく、この男に克哉のような真似をする勇気はなく、いままで燻らせてきたのだろう。


探るような視線を寄越してくる大隈に克哉はニコリと微笑んだ。


「お気持ちは痛いほど分かりますよ。御堂部長は確かに、魅力的だ。美しいものほど、穢したくなる。そして孤高を保つものほど、手に入れたくなる。」


大隈の表情はいまや硬直の域に達している。
何を言われるのか不安でならないが、しかしここで何か言葉を発して墓穴を掘ることは避けたい。
崖の縁で進退に窮した人間のような状態になっている彼に克哉は笑みを深くした。

なるべく、好意的に見えるように。

「そう警戒なさらないで下さい。大隈専務、私は貴方の味方です。私も御堂部長を手に入れたいと望む者の一人でして。」
にこやかに言う克哉を大隈はにわかに信じられない様子だった。
その時電話が鳴った。
ランプはそれが内線であることを示している。

大隈は手を伸ばすのを迷った。


勝った、と克哉は心の奥で口の端を吊り上げた。


態と足をゆっくり運び、執務室の壁に設置された液晶モニターに歩み寄る。
DVDデッキにディスクをセットし、ディスクトレイを挿入しないまま大隈を振り返った。
電話が鳴り続ける。
大隈はそれを取った。

「手が離せない。声を掛けるまで電話も人も取り次がないでくれ。」



それでいい。



克哉は笑みを深くしながら頷いた。
静かに、ディスクトレイがデッキの中へ滑り込んでいく。
真っ暗だった画面が数秒の砂嵐の後映像に切り替わった。
『よせっ!やめろ!!』
途端、上ずった御堂の声が響く。
大きなモニターに映し出されたそれに大隈は唾を飲み込んだ。

手首を縛られ男にのしかかられて抵抗するように動く御堂のシャツは大きく肌蹴て、
日に焼けていない白く滑らかな肌と桃色に染まった胸の飾りを晒している。

普段丁寧に櫛を入れてある髪は乱れ、表情を崩さない冷静な彼が動揺に顔をゆがめ羞恥に頬を染めて。


御堂の乱れた姿は余りにも扇情的だ。


モニターの中では、必死にレンズの注視から逃れようと身を捩る御堂を克哉の容赦ない言葉が追い詰めている。
克哉の手で露わになる腰に大隈の目はひきつけられた。
細く端整な腰のライン。

いつもはスラックス越しに想像することしかできないそれが露わになろうとしているのだ。
興奮を抑えきれなくとも無理はない。

克哉に向けて荒げられる御堂の声は大隈が聞いたこともないほど動揺し上ずっている。
御堂の足からスラックスが引き抜かれ、引き締まって整った脚が画面に映し出されると同時に大隈が僅かに身を乗り出す。
克哉はかすかに笑みを浮かべながらその様子を観察していた。
本格的に御堂を攻め落としにかかった克哉が動くたびに悩ましい御堂の声がスピーカーから響く。

押し殺した息遣いは徐々に、明らかな甘さを含んで。

時折混ざる気の強い言葉と必死に耐える様子が見ているものを煽るのは、実際に目の前でそれをみた克哉が誰よりもよく分かっている。


大隈の意識はもう、快楽に染まりつつある御堂の表情や逃れようと動く端麗な肢体に全てもっていかれているはずだ。


モニターの中では御堂が口にハンカチを詰め込まれ、すらりと長い脚を淫らに開かされてくぐもった悲鳴を上げている。
克哉の指をくわえ込まされている様子が、最新式のビデオには鮮明に映し出されている。
立ち上がってヌラリと液体を纏った性器も、汗をしっとりと浮かべた滑らかな肌も、快楽と苦痛に歪む官能的な表情も。
肉棒を強引に押し込まれたときの御堂の悲鳴は、何度聞いても耳に心地よい。

大隈も、瞬きすることさえ忘れた様子で見入っている。

初めて男に犯される苦痛に弱々しくなった御堂の声と、響く苦悶の声。
濃い色のソファの上に縫い付けられた御堂の身体が力なくうねり、時折激痛に硬直する。
それも徐々に快楽の呻きへと変わっていく。
前立腺を探り当てられた御堂は全身を紅潮させ、その整った顔を苦痛ではなく快楽に乱しながら、官能的な喘ぎ声を響かせる。
普段は冷たい光を宿す紫苑の瞳が快感にとろりと溶けて涙を纏わせている様はまた嗜虐心を煽る。
絶頂へ向けて克哉が身体の位置を動かし、御堂のそそりたった花芯や押し広げられた秘孔まで全てがモニターに映し出された。

御堂の声は喘ぎから嬌声へと変わり、明らかにその身体も快楽に悶え始める。

ソファの軋む音、御堂の甘い悲鳴、身体のぶつかる音。
それが最高潮に達したとき、白い身体が大きく仰け反り、一際魅惑的な嬌声を上げて御堂が絶頂を迎えた。

ビデオはその後も少し回り、陵辱され呆然と倒れこんだままの悩ましげな御堂の姿を写してとまる。


再び黒くなった画面に、机に座ったままモニターに視線を釘付けた大隈が映りこむ。



「気に入っていただけましたか?」



愉快そうにさえ聞こえる克哉の声に大隈がハッと息を呑んだ。
恐らく机の影を覗き込めば、男の股間を押し上げるものがあるだろうが克哉は想像するだけに留めた。
一瞬呆けたような様子で向けられた視線は直ぐに固いものに変わる。
「それで?交換条件はなんだ。」
警戒を解かない大隈に克哉はまた笑った。
今度は、共犯者の笑みだ。

「御堂さんを2人で共有すること。それと・・・私をMGNへ引き抜くこと。」

ぴくりと大隈の眉が上がる。


天秤にかけているのだろうが、克哉は自分の思い通りになることを知っていた。


相手はあの御堂だ。

このビデオが有る限り彼を言いなりにすることは簡単なこと。



長年妄想でしか抱けなかった相手を好きに抱けるのだ。
それに比べれば、たかが一営業の引抜など取るに足らないことだろう。



克哉はじっと待つ。




何分立ったか。


大隈は頷いた。




「いいだろう。それを貰う。」




克哉はニヤリと笑った。

「契約成立、ですね。」



ほぉら、言っただろう?何もかも俺の思い通りに動くんだ、とな。



脳裏に涼しげな御堂の表情を思い浮かべる。
美しい顔が悔恨と憎悪に歪み快楽に蕩けるのはもう直ぐだ。


克哉の背筋をゾクリと快感が走る。




待っていろ、御堂。









「ん・・・・」

御堂は指を組んで腕をぐいと前へ伸ばした。
ずっと同じ姿勢のまま固まっていた身体が屈伸で一息つく。
パソコンの時計を確認すれば、時刻はそろそろ10時になろうというころだ。
既に秘書は帰り、オフィスにも人はまばらなはずだ。
残業は慣れていたが今日のそれは些か不愉快だった。
御堂自身の仕事ではないのに大隈直々の指名という名を借りてまわされてきたのだ。
他人のフォロー全てを厭うわけではない。

だが今日任されたのは、明らかに、御堂でなくともこなす事が出来る内容の仕事だった。

モニターに向き直りもう一度確認する。
不足が無いと判断し、御堂はそれをメディアに移し変えて席を立つ。
出来上がったら第一会議室に、と指定されている。

少々おかしな話ではあったが、専務はプレゼンの資料であるそれを提出させて確認する必要はないとして直接会議室のパソコンに入れるよう指示してきていた。

御堂に任せたのだからそれ以上の確認は不要という意味なのか、どうなのか。
良く分からないが、専務がいいと言っている以上それでいいのだろうと納得させて御堂は会議室へと向かった。
各会議室のあるフロアはオフィスとは違う階であるために既に人の気配がない。
ところどころ照明の落とされたフロアを1人、靴音を響かせながら御堂は歩く。
第一会議室のドア横に設置されたカードリーダにIDカードを通す。
小さな電子音と共に緑のランプが点り、カシャンと音を立てて鍵が開いた。

御堂の動きをセンサーが捉え、会議室に電気がつく。


照明を抑えられていた廊下に比べて眩しいそれに一瞬目を細めてから、御堂は発表者が座るデスクに据えつけられたメインコンピュータの電源を入れた。




その、瞬間。





『よせっ!!やめろ!!』





切羽詰った男の声がワン、と響いた。


「ッッ!?」


驚愕に御堂がビクっと身体を震わせる。
突如大きな音を聞いた衝撃をやりすごした彼を待っていたのは新たな衝撃だった。





会議室中のモニターというモニターのなかで肌を晒してもがいているのは自分ではないか。







「なっ・・・!!!!」








あまりのことに頭が真っ白になった。


意味もなく視線が踊る。



漸く我に返ってキーボードを叩くのだが、消えない。





止まらない。

音さえ、消えない。






狼狽する御堂に、ドアの開く音は聞こえなかったが、入ってきた人物の声は届いた。




「無駄だよ、御堂くん」




静かに響いたその声は御堂の脳天から足先までを衝撃の槍で刺し貫いた。



「ッッッ!!!」



勢い良く振り返った御堂の脚が椅子にあたり、可動式のそれが大きく床を滑る。
ドアの前に佇んでいたのは直属の上司。

紫苑の瞳は驚愕と恐怖に見開かれ、閉じることを忘れた唇が小さく震えた。



「ぉ・・お、く・・ま・・・せん、む・・・・」



自分の声とは思えないほど掠れたそれ。


だが御堂は上辺を僅かでも繕えないほど動揺していた。

モニターには変わらずあの夜の蛮行が、己の狂態が、流れている。



大隈は御堂が見たことのない表情を浮かべていた。

彼を追い詰めようとする克哉の顔に酷似した表情を。




ひゅ、と御堂の喉が引き攣るような音を立てた。




咄嗟に後ずさる。
ドアの内鍵が閉まる音が、静かではないはずの会議室に響く。


「これを人の目に晒したくなかったら、逃げないほうがいいよ御堂くん。」


その言葉に、思わず足が止まった。
自分で止めたわけではない。

全身が恐怖に強張って動かなくなったのだ。


「こ、れ・・を・・・どこ、で・・っ」


分かりきったことだ。
それでも聞かずには居られなかった。
「君にしては無益な質問をするね。君を強姦した彼のほかに有りえないだろう。」
一歩一歩大隈が近寄ってくる。


逃げたいのに、身体が動かない。


震える手が、慄く身体を支えるように机に触れる。

「な、ぜ・・・」
常は凛と張っている声が可哀想なほど震えている。
「彼の取引に乗ったんだよ。お互い、欲しいものを手に入れるために。」
御堂の瞳が左右に大きく揺れ動く。
憐憫を誘うほど動揺した瞳。
それは彼を組み敷こうとしている男の情欲を煽り立てる。


「これを公表されたくなかったら、素直に脚を開くんだ。」
「なっ・・・!!!」


御堂の目が見開かれ、息を呑むような声が咄嗟に漏れた。
大隈はもう彼の目の前に立っている。


予想外の事態によって、激震ともいえる衝撃を受けた御堂の内心は何を認識できる状態でもなかったが辛うじて、大隈の言葉を理解する。


「そ、んな・・・」


御堂は呆然と呟く。
これは明らかに、ローターの一件で彼に逆らった御堂に対する報復だった。


あの悪魔のような男を出し抜いたという甘美な勝利の爽快感はすでに思い出すことすらできない。



砂上の勝利が勢い良く崩壊し跡形もなく霧散するのを御堂は絶望的な思いで見つめていた。

彼の先にあるのは底の見えない深い深い崖だけだ。



戻ることも避けることも出来ない。
そして退路を塞いでしまったのは・・・そこに絶望の絶壁を作り出してしまったのは、間違いなく自分の行為。





こんな理不尽なことがあるか・・・!!


御堂は心の中で泣き叫んだ。





何故


何故こんな目に・・・っ




私が、私が何をしたというんだ・・・!!!




お前は一体何をしたいんだ。






お前は、一体、私をどうしたいんだ、佐伯克哉・・・!!!







「御堂くん」


低音が響き、彼を現実に引きずり戻す。


大隈が無言で催促をする。

モニターには快楽に悶える己の姿がうつしだされ、室内には明らかに甘さを含んだ自分の喘ぎ声が反響する。





有無を言わせぬ強さで肩を押してくる大隈の手。






御堂は目の前に闇が広がるのを感じながら、その動きに逆らわず机に押し倒されるしかなかった。
















プレゼンの為のプレゼント、な、あのシーン。とっても楽しく苛めさせていただいたのですが(爆)、ブラフに御堂さんが気付いてたらどうなったんだろう??と妄想
結果、大隈登場★(待て)
でもあの悪代官チックな顔した直属の上司、御堂さんにセクハラとかしてそうじゃないですか・・・?(聞くな)
そんなこんなで、次は延々、眼鏡を交えて3Pです・・・・・・需要あるのかな・・・orz