目の前で、御堂が倒れた

休日出勤をしていると聞いて足を延ばしたMGN本社ビルの前で




青白い顔をした御堂は・・・軽かった


頬の線もやや鋭くなっていて

目の下は白い肌がどんよりと暗く沈んでいる



彼は普通なら、体調管理のできない人間ではない
俺が御堂にしている行為の結果だというのは明らかだった




そう自覚した瞬間、何か苦い感情が通り過ぎた





だがそれはただ重苦しい感覚だけぼんやりと残して、捕まえる前に霧散して






支えてしまった手前このまま放置するわけにも行かないのだと、半ば言い訳するように舌打ちして彼を運んだ

通い慣れたマンション
ぐったりとした御堂の身体をソファに下ろす



生気のない御堂の顔を見ても僅かな高揚感も沸いてこなかった

この男がこうなったのは俺がこいつから全てを奪ってやった結果だというのに





孤高の白薔薇を高みから引き摺り下ろして


纏う輝きを剥ぎ取って



尊厳を踏みにじって何もかも奪い取れば





甘美な快感が湧き上がると思っていた










なのに










こうして、自分の手で貶めて弱らせた御堂を目の前にして

虚無感しか浮かばない







舞い散る雪を手の中に捕まえたと喜んで


開いた掌に何も見つけられなかったような





空しさ






何かを得ようと玩具を壊して


もう元に戻らないそれを前に、何も得られずに自失としている幼児のような






滑稽さ







自分が何をしたいのか

どこへ向かっているのかも分からぬまま

ただ虚しく時が過ぎて



御堂が目を覚ましたときに俺を襲ったのは





「大丈夫か」

その一言が言えない・・・




その一言を言う資格を自分で捨ててしまったことへの






強烈な










哀しさ、だった










まだぼんやりとしたままの御堂にどこかが苛立つ

徹底的に痛めつけて弱らせて貶めたいのに
引き摺り下ろして踏みにじって穢しつくしたいのに


なのに



弱っているコイツを見ると苛立つ





俺はコイツをどうしたいんだ?

地の底に引き摺り落とされて惨めな姿を晒したコイツを蔑みたいんじゃないのか?




なら何故




「ミスの責任を感じるのは分かるが、多少は部下に任せることも必要だ。一人で抱え込むことだけが責任感じゃない」




なんて言ってるんだ、俺は







俺は・・・



俺は、コイツに前のままで居てほしいのか?






最初に会ったころのように凛と美しく穢れを知らない完璧な御堂孝典でいてほしいのだろうか?












後悔、しているのか・・・・?












なら何故穢した?


何故引き摺り下ろした?


何故壊そうとした?








わからない。

答えは濃い靄の向こうにあって輪郭すらつかめず、苛立つ









この訳の分からない感情から逃げたくてその場を後にしようとした

止めたのは、御堂だ


真意は分からないが、なにかするんじゃないのかと聞いてくるアイツに返した言葉は勝手に唇から滑り落ちたもの



「覇気のないアンタを抱いてもつまらないからな」




無意識の言葉に俺は縋りついて

これが意味の分からない感情の答えなのだと思い込もうとした




そう




「俺が相手にしたいのは、プライドの高い、高慢なアンタだ。今のアンタには壊す価値を感じない」






そうだ





壊したことを後悔しているわけじゃない

俺が以前のコイツに認めているのは、粉々に打ち砕く対象としての価値だけだ




それ以上のものなど微塵もない





御堂はソファに身体を預けたまま俺を警戒するでもなく拒むでもなく無防備にそこにいる

その姿に湧き上がる感情が不快だ



もやもやと掴みどころが無いくせにずっしりと重く胸の辺りを塞いでくる



弱々しく自嘲の言葉を吐く御堂に、やっと手に入れた“答え”を逃しそうになる







あの御堂孝典をここまで叩き潰したのは自分だ


自分を陵辱する男の前で弱みを晒し愚痴まで吐くような男にしたのは自分だ


その姿を見て湧き上がる感情は






本当に


壊す価値を失った玩具に対する苛立ちだけか?







覇気の欠片も感じさせない御堂を置いて、逃げるように部屋を出た








違う、俺は


俺は、後悔などしていない








<俺>はこの状況に満足しているんだ



生ぬるい戯言をいっているのは封じ込めたもう一人の<俺>に違いない





綺麗ごとと妥協と受動で生きるあの<俺>が下らない感情をぶつけてきているだけだ






そう、御堂を見て苦い感情を感じているのは俺じゃない












だから、徹底的にあの男を辱め穢しつくして貶めれば、それでいいんだ。



















改行率当サイトNO.1小説(爆)
特にこういう鬱小説だったりすると行間を大きく取って「さあここを読んで!!」って感じに書くのがすきなんですが(笑)
キチメガはブログサイトさんが多いせいもあるんでしょうか?あんまりこういう行間開けた小説見ないんですよね・・・前ジャンルでは結構有ったんですが・・・。
どうなんでしょう?読み辛かったりウザかったりしますか?広い行間