「これでとりあえずオッケー、だよな・・・?」
部屋を見渡して本多は独り言ちた。


今日は御堂が部屋に泊まりに来る。
紆余曲折あって付き合い始めてから初めてのお泊りだ。

これはもう求められていることは明白、と本多は予定が決まってから今日のために色々と準備を整えた。
男同士でセックスするのは初めてだし何やら受け手は痛いらしいという知識だけしかなかったので、
とにかく御堂が痛がらないように、そして二人の門出に相応しい夜になるようにと、ゲイセックスのハウツーをインターネットで検索して入念に調べた。
最近暫く買っていなかったコンドームも買ったし、アナルセックス用のローションも買った。
インターネットで調べた専門店のお兄さんは必需品から痛くないやりかたまで懇切丁寧に本多の質問に答えてくれた。
部屋の掃除もしたし、風呂はさっき入って隅々まで洗ったし。


そこで本多はもう一度、姿見に視線を戻した。
御堂が部屋に来る前にレストランに行くのだ。
店のセレクトを御堂は本多に許さないため、今日もそれなりのところなのだろう。

緊張した面立ちと気張りすぎな持ち主に、御堂が以前彼に買った一張羅が鏡の向こうから苦笑いしてくる。

本多はもう一度横を向いたり背を映したりしてゴミや皺がついていないことを確認すると「よし!」と気合を入れて玄関に向かった。
部屋の電気を消す前にもう一度、御堂を向かえるそこを確認する。


大丈夫、掃除も準備もばっちりだ。



「いってきます!!」



誰も居ない部屋に威勢のいい声で無駄な挨拶をして本多は出て行った。










御堂お勧めのフレンチに舌鼓を打った後本多の家に移動して、先に御堂がシャワーを浴びた。
本多がシャワーを終えて部屋に戻ると、バスローブ姿の御堂がソファにいた。

いよいよだ、と武者震いを抑えながら歩み寄る。

御堂は風呂上り絶対バスローブだろうと慌てて用意したそれは白くゆったりと御堂の肌を包んでいて、
座っている彼を見下ろすとくっきりと浮いた鎖骨からその下の滑らかな肌までが見えて本多の身体を熱くする。
立ったまま身を屈めてソファの背に手をつくと、覆いかぶさる形で御堂にキスをした。
「ん・・・」
ゆったりと座ったまま御堂がそれを受ける。
何度か本多が軽く触れるだけのキスをすると、御堂の片手が肩に伸びて本多を引き寄せ、ぐっと口付けを深めた。
「っ、ぅ・・・」
ぬるりと忍び込む御堂の舌に本多の下半身がズシリと反応する。
やっぱり慣れている、と思いながら目を開けると、角度を変えながらキスを続ける御堂の顔が至近に見える。
閉じられた瞼を縁取る長い睫が白い頬に薄い陰を描いている。

触れたい。

本多はソファについていた片手を御堂の頬に添えた。
見た目どおり、しっとりと滑らかだ。

また身体が熱くなる。

くちゅ、ちゅ、と音を立てながら舌を絡めているだけで欲情して欲情して仕方ない。
裸の胸板を御堂の手が滑る。
本多は迷った末、いつもどおり腰にタオルを巻いただけだ。
そのタオルも股間で存在を主張してきたもののせいで今にも結び目が解けそうである。

「ベッドに行こうか、御堂さん・・・」

御堂は視線を下に向けてクスリと笑った。
「もうこんなにしてたのか、キスだけで」
少し息が上がって頬も若干染まっているのにまだ余裕たっぷりなその言い方に本多が顔を赤くする。
「なっ、あ、あんたがエロいから悪ぃんだよ!」
なんだかまた、過去を見せ付けられた気がして「それはそれは」などと言って笑う憎らしい唇を塞いだ。
御堂が口付けを深めながら立ち上がって、舌を絡め、口内を愛撫しながらベッドへ倒れこむ。

「っ、は・・」

ネイビーブルーの上に組み敷いた御堂を見て、本多は興奮でどうかなりそうだった。
だが"急がず、優しく、相手を労わって進めましょう"というハウツーサイトのフレーズを思い出して必死で自制する。
そのまま御堂を見つめ、心音を弾ませながらバスローブの袷(あわせ)を割る。
頬と同じく滑らかな白肌が本多の手を迎え、また、下肢が張る。
ごくりと唾を飲む本多に小さく笑ってから御堂がまたキスをした。
濃厚な口付けに酔っていると御堂の体重が掛かって、ごろりと本多はベッドに転がされた。
「ん、ふ・・・っ、は・・」

下から見上げる御堂もいい。
ゆるいバスローブが肌蹴て、引き締まった身体が腹の辺りまで見られる。

繊細そうな造りの指が、すでに露わな本多の身体を這う。
御堂の愛撫は的確で、触れるか触れないかといった手付きが妙に快感を煽る。
辛抱たまらなくて、御堂をまた押し倒した。
キスをやめて、バスローブを肩下まで引き下ろす。
いつも欲情していた首筋に万感の思いを胸に吸い付けば、自分と比べて華奢な身体がヒクリと反応した。
身体を這う御堂の指に煽られながら首筋から鎖骨へと唇を移す。

そこでまた御堂が体勢を入れ替えた。

さっきは別によかったが、今は御堂の身体を舐めて高めたくて、直ぐに本多がごろりと体勢を反す。


と、御堂が少し眉を寄せてまたごろり。



ごろり


ごろり、ごろり



ごろり・・・





「ちょ、なんなんだよっ」
「それはこちらの台詞だ!」

本多はまた体勢を入れ替えようとする御堂をグッとシーツに押さえつけた。
「なっ」
目を瞠った御堂が不機嫌そうな顔になって本多を睨む。
まだ覆い被さる体勢を狙っているらしい御堂を見た本多は、御堂が怖がっているのかもしれないという可能性に思い当たった。

そうだ、サイトにも書いてあったではないか。

男として不自然なポジションと挿入場所に緊張したり怖くなったりする人が多いのだと。
そしてその不安を優しく取り除いてリードするのが抱き手の義務だと。

本多はつい棘っぽくなってしまった口調を改め、精一杯穏やかに囁いた。


「確かに抱かれんの怖いかもしんねぇけどさ、優しくするから・・・。」




半分自分に言い聞かせ、焦ってはいけないと再度己に念を押す。
が・・・。






「は・・・?」







下から間の抜けた声。
見下ろせば"びっくりしてます"と言う様な表情。



それはそれで何だか可愛らしいのだが。いや、しかし。


「"は?"って?」
これから身体を重ねるにしては色気の無さ過ぎる声に思わず手を止めると、御堂が下からまじまじと本多を見返してきた。


「・・・・私が抱かれるのか?」
「へ!?」



「・・・考えていなかった・・・。」



言葉通り、御堂は全く持って、今に至るまで考えていなかった。
どちらかが抱かれる側に回るのだという事がすっぽり頭から抜け落ちていた。
男性として当然のごとく異性との性交渉しかしてこなかったから、自分が抱かれるという思考が皆無だったのだ。
冷静に考えればお互いに相手を"抱く"など出来ないのは当然ではあるが。

「まさかあんた、俺を抱く気だったのか・・・?」

固まった御堂の上で本多が頬を引きつらせている。
御堂は真顔でそれを見て、それから全身に視線を投げてみた。

どう見ても男。

というか自分よりかなり体格がよく、筋肉も無駄に立派で逞しい。
腰でバスタオルを押し上げているものも、自分より立派だと思われる。



もう一度ジッと顔を見つめ、本多が自分の下で身悶える様を想像してみた。





(・・・・・・)





だがここで首を振れば抱かれるのが決定する。






「わかった・・・・・・抱いてやる。」
「いや、そんな、悲愴な顔して言わないでください。」

家の存続のために悪代官の手篭めになりますと貧しい父親に進言する町娘さながらの表情で頷いてくる御堂に本多はへこんだ。
別に抱いて欲しいわけではないが、とりあえず傷ついた。
御堂が憮然と顔を顰める。
「大体、人の意見も聞かずに抱こうとする君がおかしい。何故当然のように私が受け手になっているんだ。」
もう、甘い雰囲気は皆無である。
流石の本多(ムスコの方)も元気をなくした。
「そりゃ、だって、御堂さんのほうが俺より細身だし、なんつーか、綺麗だし。」
「っ、お前が鍛えすぎているだけだ!私は細身じゃないっ」
「そこスか?」
ずれた論点に思わずツッコミを入れると御堂が悔しげに頬を染める。
とにかく、と仕切りなおした。
ついでに本多を押しのけようとするが、このポジションを奪われてなるものかと本多はさりげなく力を入れて覆いかぶさった今の体勢を死守する。
これで隙を見て押し倒されたら目も当てられない。
確かに自分より細身だが御堂だって男だ・・・油断はできない。
「私は嫌だ。」
「何がですか。」
「君に抱かれるのがだ。決まってる。」
セックスはしようとしたのだから性交渉を持ちたくないという意味ではないと分かっているが、それでも傷つく言い方に本多が眉根を寄せる。
「何で。」
御堂も眉根を寄せ返した。
「私も男だからだ。」
「んなこと言ったら俺だって男だ!」
「だから私を抱こうというんだろう?それと同じだ。」
「あんたさっきあんな悲愴な顔しといて・・・、つか、それじゃあいつまで起っても決まらねぇだろっ!」
思わず語調を荒げると御堂が更にムッとした顔になる。
「決まらないから私に受け手を押し付けるのか君はっ」
「押し付けてる訳じゃねぇよ!」
「なら何だっ」
「それは、だから!どう考えたってあんたが俺を抱くより俺があんたを抱いたほうが自然だろ!」

双方の不機嫌がどんどん蓄積されていく。


御堂の眉間にも本多の眉間にも深い皺が増えているし、睨みあう眼光はもう、ここがベッドの上・・・しかも二人の所謂初夜である・・・など全くもって感じられない。
一応二人とも全裸に近い格好でベッドの上、一人が圧し掛かり一人が圧し掛かられ、という、普通ならば甘い雰囲気になるはずのシチュエーションであるにも関わらず、だ。


「さっきから聞いていれば、私が抱かれるのが当然のように・・・!」
舌打ちでも漏らしそうな御堂に本多が釣られて声を荒げた。
「だぁあっ、もう!じゃあどうやって決めろっつうんだよ!」
これはもう、販促方法を巡って論争するオフィスの二人そのものだ。
御堂も本多もお互い全裸でベッドの上という事を忘れかけている。
本多の声に煩そうに顔を顰めて睨む御堂など、まさに、である。


だが次の御堂の一言で、本多が一足早く現状に立ち返ることになった。


「決まっている。どちらが受け手に相応しいか今ここで実際に確かめればいい。」




そこで本多は現状に意識を戻して、自分の体勢を確認した。
言わずもがな、ベッドに横たわった御堂の上に覆い被さって彼を押さえつけている状態だ。





(勝てる・・・!)





勝利を確信して、まだ己の不利に気付いていない御堂に同意した。












朝。


「御堂さん、朝食できたぜ。」
先に起きた本多が朝食の準備を整えてからベッドに歩み寄ると、頭まですっぽりと掛け布に潜りこんだ御堂がいた。
紫がかった黒髪が頭頂部だけちょこんと覗いているのが可愛らしい。
「御堂さーん。」
口元を緩ませながらもう一度呼んでベッドに腰掛けると、蓑虫のようになった塊がビクッと揺れる。
どうやら、顔を見るのが嫌なようだ。
「御堂さん、ご飯食べましょうって。」
呼びかけても無視してくる。本多は業とらしく溜息をついてみせるが、内心は年甲斐もなく可愛い恋人にニヤけっぱなしだ。
もう少しベッドに乗り上げて、御堂の顔の直ぐ上で、態と低い声で囁いた。

「意地張ってると無理矢理キスしますよ?」
「 ! 」

反射的とも言えそうな速さでガバッと布団を退けて御堂が跳ね起きる。
本多は素早くそれを仰向けに押さえつけて、真っ赤な顔で何か抗議しようと開いた口を間髪入れずに塞いだ。
「んんんっ!!」
罠に掛かった事を知った御堂が文句と思しき声を発しながら本多を押し退けようと抵抗してくるが、
もう御堂の抵抗に慣れた本多は難なくそれを封じて、甘く深く口付けた。
「んっ・・・ふ、ぁ・・・んぅ・・・・・・っ」
一晩で教え込まれた快楽に、御堂の息も直ぐに甘くなる。
朝日に銀糸を煌かせながら口付けを解く。

そして我に帰った御堂が何か抗議する前に、ギュッとその身体を抱きしめた。


「今俺、凄い幸せです。」


御堂は何も言わない。
腕が本多を押し返そうと地道な努力している気はするが。

「強引に事を進めちゃったのは、すみませんでした。でも、御堂さんと触れ合えて、俺、本当に嬉しかった。」
そっと顔を上げると、御堂と目が合った。
「・・・ッ!」
瞬時に御堂は顔を背けてその視線から逃れた。
白い頬にカァッと頬に血が昇る。
そのまま横を向いてどこをともなく睨んでいるのがまたおかしくて、「御堂さんは?」と声を掛けた。

チラッと一瞬、紫色の瞳が本多を見る。
また横に流れて、頬を染めた顰め面のままボソッと呟いた。


「・・・腰が痛い。」

「・・・・・・すみません。」

「・・・尻に違和感がある。」

「・・・・・・・・・はい。」

「だいたいお前のは大きすぎる。」

「・・・・・・・・・・はい・・・はい?」


「・・・・・・・・・・・・ヘタクソ。」


「・・・・・・・・・」



言っていることは散々だが。
顔を真っ赤にして背けながら言い募る御堂はどう見ても照れているだけで、どうしようもなく可愛らしくて。


「・・・・・・・・御堂さん」
「・・・何だ。」



「俺また勃っちゃっ、×#@$△―――ッッッ!」











はい。ということで、Spr@yオンリーの時に参加させていただいた本御プチオフ会用小冊子へ書き下ろしたSSの再録でした。
ちょっと今、学位を賭けて最後の試験に挑まなければならないので今月中は中々更新でき無そうなんです・・・なので姑息な手段に出ましたww
べ、別にこういう時の為にとっといた訳じゃないんだからねッ!
ホントですw冬コミで買ってきていただいた物が届いたので猥褻物を整理してたら小冊子が出てきて「あ、そういえばこれ・・・」|☆)<使えるZE って(笑)
本御は今年もこんな感じで飛ばしていきますので、本年もよろしくお願いいたしますw